COLUMN

なぜ台湾の若年層は日本で「アレンジグルメ」を楽しむのか UGCの連鎖が生む体験型消費
【インバウンド・アウトバウンドマーケティングトレンド連載 Vol.6】

訪日リピーターに広がる、コンビニでつくる自分だけの食体験

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当社は、インバウンド・アウトバウンド領域におけるマーケティング支援に注力しており、調査・分析を担う「インバウンド消費行動研究室」と、広告主企業のマーケティング支援を担う「インバウンド事業本部」の2つの専門組織を有しています。

本連載では、両組織が蓄積してきた調査研究・マーケティングの知見をもとに、各国の旅行者の行動や価値観、最新のマーケティングトレンドを読み解きます。

第6回は台湾市場を取り上げます。台湾は訪日リピーターが非常に多く、定番の観光地や有名グルメを既に体験した層が多いです。そうした中で若年層の間で広がっているのが、SNSで見た食べ方や飲み方を、訪日中に自分の手で再現して楽しむ「アレンジグルメ」です。本記事では、研究室の台湾出身調査員が捉えた最新トレンドをもとに、台湾向けインバウンド戦略のヒントを解説します。

三木 ひなた

株式会社サイバーエージェント インバウンド消費行動研究室

三木 ひなた

2024年株式会社サイバーエージェントに新卒入社。2025年よりインバウンド消費行動研究室に所属。インバウンドの消費行動を起点に、訪日市場の嗜好および情報接触行動を分析し、訪日旅行者向けプロモーションの戦略立案を推進している。

SNSで見たものを完全再現 台湾若年層に広がる「アレンジグルメ」

ー今回は、訪日中の台湾若年層の間で広がっている「アレンジグルメ」というトレンドを取り上げます。まず、これはどのような現象なのでしょうか?

三木:ひとことで言うと、SNSで見た食べ方や飲み方を、訪日中に自分の手で再現して楽しむ消費行動です。コンビニの商品を自由に組み合わせたり、スーパーで買った食材をカップ麺に加えたりと、「買って食べる」だけでなく「自分でつくって試す」ところに価値が置かれています。

研究室の台湾出身調査員によると、ThreadsやInstagramでは、こうしたアレンジを紹介するリール動画が数多く投稿されており、なかには数百万回再生を超えるものも見られるそうです。「これ、意外と合う」「コンビニだけで作れるのが最高」といった反応が広がっていて、手軽に試せる楽しさが支持されています。

ー買って食べるだけでなく、自分で"つくる"ことそのものが楽しみになっているんですね。

三木:そうなんです。この背景には、台湾ならではの2つの事情があると考えています。
1つ目は、リピーターの多さです。台湾は2回目以上の訪日が約9割を占め(※1)、定番の観光地や有名グルメは既に体験済みという方が多くいます。だからこそ、次の訪日ではまだ知られていない体験や、より日本人に近いローカルな楽しみ方へと関心が移っています。

2つ目は、良いと感じたものを仲間と分かち合う習慣が根づいていることです。台湾の若年層には、日常の出来事をSNSで共有し、周囲と会話を楽しむ文化があります。自分でアレンジしたグルメは、まさに「シェアしたくなる小さなイベント」になりやすいのです。さらに、日本で見つけたものを自分の暮らしに少し取り入れて楽しむ志向とも重なり、旅行中の食が発信のネタへと変わっています。

台湾出身の調査員によると、台湾には「自分が良いと感じたものは、みんなにも教えたい」という互助的な気質が根づいているそうです。SNSでの発信も、自慢というより「こうすればできるよ」と仲間に参考情報を渡す感覚に近いといいます。実際、Threadsでは「日本で絶対に買うべき調味料は?」といった問いかけに数百件ものおすすめが集まることも珍しくありません。一人の「教えて」にみんなが持ち寄る、その口コミの循環が、アレンジグルメのようなトレンドを一気に広げています。

自由な組み合わせを楽しむ「コンビニDIYドリンク」

ー具体的な事例を教えてください。SNSで大きな反響があったものはどんなものですか?

三木:代表的なのが「DIYドリンク」です。コンビニで売られている飲み物やデザートを自由に組み合わせて、自分だけの一杯をつくる飲み方で、ThreadsやInstagramを中心に話題になっています。
人気の組み合わせをいくつか挙げると、アイスコーヒーにレモン系のドリンクを合わせて「シチリア風コーヒー」に見立てるもの、コーヒーに絞って食べるタイプのバニラアイスを混ぜるもの、マンゴースムージーに飲むヨーグルトを加えて「ラッシー」風にするものなどがあります。いずれも数百円で完結し、特別な道具もいりません。

ーまさに、コンビニの商品を自由に組み合わせて楽しんでいるんですね。

三木:おっしゃる通りですポイントは、味そのもの以上に「試してみる」という体験に価値が置かれていることです。台湾の若年層には、まだ試していない面白い商品や限定品を"掘り出す"こと自体を楽しむ傾向があります。日本のコンビニは品揃えが豊富で新商品も多いため、自分だけの一杯を見つける楽しさと非常に相性が良いと考えられます。

台湾出身の調査員によると、こうした組み合わせはThreadsを中心に次々に共有され、一人が試すと「自分もやってみた」という投稿が連鎖していくそうです。多くは数百円で手に入り、特別な予約も行列もいりません。だからこそ、まだ試していない組み合わせを見つけて攻略していくこと自体が、若年層にとって小さな楽しみになっています。

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「背徳感」と「裏技」を試す ホットスナックのフライドチキン×タマゴサンド

ー飲み物以外にも、話題になった食べ方はありますか?

三木:はい。コンビニのホットスナックのフライドチキンを、タマゴサンドに挟む食べ方が、TikTokやInstagramを中心に拡散しました。台湾だけでなく欧米圏の訪日客の間でも広がっていて、「日本のコンビニ飯を組み合わせる」「背徳感がある」「日本人の裏技グルメを試したい」といった感覚で人気を集めています。

ここで重要なのは、観光客が求めているのが「高級な食体験」ではないという点です。むしろ、「SNSで見た、日本人の日常っぽい食べ方を自分もやってみる」という参加感が魅力になっています。

ー"参加感"というのは、具体的にどういうことでしょうか?

三木:こうしたアレンジは、SNS上では「裏技(隱藏吃法)」として紹介されることが多いんです。台湾の若い世代にとって、この「裏技」という言葉は非常に刺さりやすいキーワードです。実際に試すことで、「自分もこのトレンドを知っている」「現地で本当にやってきた」と発信でき、SNSでの会話に加わる感覚が得られます。

これは、台湾の若年層に見られる承認欲求の形とも重なります。彼らは、SNSで人と違う視点や情報感度の高さを示すことに価値を感じる傾向があります。「見た」だけでなく「試して検証した」というプロセスが、共感や称賛を得る材料になっているのです。

ホテルで作る「低コストの贅沢」カップ麺アレンジ

ー滞在中の食事にも、アレンジの動きはありますか?

三木:夜食が分かりやすい例です。ホテル近くのスーパーやコンビニでカップ麺と具材を買い、部屋で少し豪華な夜食をつくる楽しみ方が広がっています。友人同士で旅行する若年層を中心に人気で、SNSでもよく見かけます。

特に象徴的なのが、スーパーで買った和牛をカップ麺に加える「和牛入りインスタントラーメン」です。台湾では日本の和牛への信頼や憧れが強い一方、現地では気軽に買えるものではありません。そこに「日本のスーパーなら、安くても質が高い」というイメージが重なり、「低コストで日本らしい贅沢をつくる」行動として人気になっています。

ー日本のスーパーだからこそ成立する楽しみ方なんですね。

三木:そうなんです。しかも、この体験はSNSと非常に相性がよいのが特徴です。「深夜にホテルでつくる」「旅行中の罪悪感めし」「スーパーの購入品紹介」といったVlog形式で発信されることが多く、単なる食事ではなく「日本で生活している感覚」を疑似体験するコンテンツとして消費されています。台湾の方は、非日常的な日本だけでなく、日本人にとっての"日常"そのものも楽しんでいるといえます。

和牛以外にも、トマト味のカップ麺に照り焼きチキンボールやエビ、チーズを足すもの、担々麺に豚の角煮を加えるものなど、「〇〇入りカップ麺」系のアレンジは幅広く見られます。手軽に再現できることから、今後もさまざまなバリエーションがSNS上で生まれていくと考えられます。

台湾出身の調査員によると、スーパーで日本人が普段使っている食材を選ぶこと自体が、若年層にとって楽しみの一部になっているそうです。観光客向けに用意されたものではなく、日本人の日常に近い商品をあえて持ち帰り、それをホテルで再現する。この「日本の日常に入り込む」感覚が、単なる食事以上の価値を生んでいます。

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「自分で再現する」消費が示す、台湾向けマーケティングのヒント

ーこうしたアレンジグルメの広がりから、どのようなことが読み取れますか?

三木:大きく言えば、台湾の若年層の消費が「完成品を消費する」から「自分で再現する」へと変わってきていることです。商品そのものよりも、「自分でつくった」「SNSで見たことを現地でできた」というプロセスに価値が生まれています。

そして、こうしたアレンジが広がりやすい最大の理由は「真似しやすさ」にあります。価格は数百円程度で、特別な予約も要らず、日本語が得意でなくても商品パッケージやSNSの投稿を見せれば購入できます。失敗しにくく、誰でも参加できることが、拡散の力につながっています。

ー最後に、台湾向けマーケティングを検討する企業様へ、重要なポイントを教えてください。

三木:まず、商品を「完成された形」で見せるだけでなく、「再現したくなる余白」や「試したくなる組み合わせ」を一緒に提示することが重要です。台湾の若者は、与えられた体験をそのまま受け取るより、自分の手を少し加えて楽しみたいと考えています。アレンジの余地を残すことが、発信されやすさにつながります。

次に、ユーザーが真似しやすい形で情報を届けることが鍵になります。ブランド側が一方的に完成形を見せるより、低価格で予約も要らず、言葉の壁も低い「参加しやすい入り口」を用意することで、ユーザー起点の投稿(UGC)が生まれやすくなります。「裏技」や「参加感」といった、台湾の若年層に刺さる文脈を意識することも有効です。

そして、コンビニやスーパーでの買い物、夜食づくりといった「日本人の日常」そのものが、いまや魅力的な体験コンテンツになっています。観光向けの特別感だけを訴求するのではなく、生活者のリアルな使い方や組み合わせを発信していくことが、台湾の若年層の来訪意欲や購買意欲を高める重要なポイントになると考えています。


※1 観光庁「インバウンド消費動向調査(旧 訪日外国人消費動向調査)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/gaikokujinshohidoko.html

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