当社は、インバウンド・アウトバウンド領域におけるマーケティング支援に注力しており、調査・分析を担う「インバウンド消費行動研究室」と、広告主企業のマーケティング支援を担う「インバウンド事業本部」の2つの専門組織を有しています。
本連載では、両組織が蓄積してきた調査研究・マーケティングの知見をもとに、各国の旅行者の行動や価値観、最新のマーケティングトレンドを読み解きます。
第2回は台湾市場を取り上げます。台湾は成熟したリピーター市場である点が大きな特徴です。定番観光地にとどまらず、地方や季節体験など日本人の日常に近い消費へと関心が広がっています。
本記事では、こうした台湾人観光客ならではの行動特性をもとに、日本が何度も訪れたくなる目的地として選ばれ続ける背景と、2026年のインバウンド戦略のヒントを解説します。
■話者
株式会社サイバーエージェント インバウンド消費行動研究室
三木 ひなた
2024年、株式会社サイバーエージェントに新卒入社。2025年よりインバウンド消費行動研究室に所属。インバウンドの消費行動を起点に、訪日市場の嗜好および情報接触行動を分析し、訪日旅行者向けプロモーションの戦略立案を推進。
高成長を続ける台湾市場とリピーター構造の実態
ーまずは、台湾市場の現在地について、訪日客数や消費額の観点から教えてください。
三木:2025年の訪日台湾人客数は676万3,400人で、前年比11.9%増と過去最高を更新しました。(※1)消費額も1兆2,110億円と、客数・消費額ともに過去最高です。国別の消費額ランキングでは中国に次ぐ第2位で、インバウンド消費全体(約9.5兆円)の約12.8%を台湾だけで占めています。訪日客数は韓国・中国に次ぐ第3位ながら、消費額では第2位というのが台湾市場の際立った特徴です。
ー訪日客数の規模に加え、消費面でも台湾市場の存在感は非常に大きいのですね。
三木:そうなんです。そして台湾市場を語るうえで絶対に外せないのが「リピーター」の多さです。2025年のデータでは、訪日台湾人の初訪日はわずか12.1%です。2回目以上のリピーターが約88%を占め、6回以上の訪問者も4割を超えています。(※2)リピーターが多いということは、「定番の観光地はもう知っている」層が主流ということ。だからこそ、地方誘客や体験型コンテンツとの相性が非常に良い市場といえます。
ー2026年も台湾人旅行客の増加は続く見込みでしょうか?
三木:加速すると考えています。2025年5月に台湾の立法院が祝日を年間11日から16日に増やすと発表(※3)し、2026年の休日は過去最多の120日、3日以上の連休も過去最多の9回となります。旅行に動きやすい年という意味では、韓国と並んで台湾も「連休の当たり年」です。
リピーター市場だからこそ進む、地方分散と季節体験志向
ー台湾人観光客の旅行スタイルには、どのような特徴がありますか?
三木:台湾はもともと個人旅行スタイルを好む人が多い国です。韓国のように団体旅行から個人旅行へ大きく移行したというより、以前から自分で行き先を選び、何度も日本を訪れてきた方が多い印象です。一方で、高齢層では引き続きツアー利用も見られます。
ーリピーターの多さが旅行先にも影響していそうですね。
三木:そうですね。初来日では東京や大阪といった都市部を選び、2回目以降はまだ行ったことのない地方都市へ訪れる流れが自然に生まれています。さらに近年は台湾から日本の地方空港への直行便も増えており、都市部を経由せずに地方へアクセスしやすくなっていることも後押しになっています。
ー具体的に人気のエリアや旅行スタイルはありますか?
三木:例をあげると東北は、台湾人観光客に年間を通じて人気の高いエリアです。夏はレンタカーを使って周遊する旅行スタイルが人気です。仙台を起点として山形・秋田・青森など複数県を巡るケースも多く見られます。
ねぶた祭や竿燈まつりといった夏祭りを目的に訪れる人もいれば、冬は蔵王の樹氷や雪景色、温泉地を楽しむ旅行も人気です。
また、台湾人観光客は季節ごとの日本の魅力をしっかり押さえたいという意識が強く、夏祭りなどのシーズナルイベントや雪景色も人気です。
現地ならではの年に一度の祭りを目的に夏に訪日するなど、日本人と同じような感覚で地域イベントを楽しむ動きも見られます。また、冬は雪を目的に訪れる観光客が多いです。台湾の都市部では雪に触れる機会が少ないことから、雪景色を見たい、スキーやスノーリゾートを体験したいといったニーズが強く、東北や北海道などが選ばれやすい傾向があります。
ー台湾からは日本以外にも近距離の国があるなかで、なぜこれほど日本が選ばれるのでしょうか?
三木:理由の1つは、日本が「国内旅行の延長線上」のように捉えられていることだと思います。台湾では、国内旅行よりも日本旅行のほうを魅力的だと感じる人が少なくありません。地理的に近く、フライト時間も比較的短く、日本は地域によって風景や気候、食、体験が大きく異なります。
台湾はコンパクトな国土で、国内でももちろん違いはあるものの、日本ほど四季や地域差を強く感じられるわけではありません。そのため、「少し移動するだけで景色も食も変わる」「雪も温泉も都市観光も楽しめる」日本は、何度訪れても新鮮に映りやすいのだと思います。
また、台湾では日本のアニメ・漫画・テレビ番組・日用品などが昔から生活の中に浸透してきたこともあり、日本への親近感が世代を超えて受け継がれている土壌があります。単に近いからではなく、馴染みのある国として日本が存在していることが、訪日需要の強さにつながっていると考えられます。
日本人の日常に近づく、台湾人観光客の購買行動
ー消費スタイルにはどのような特徴がありますか?
三木:台湾人観光客の消費スタイルは、いわゆる爆買いとは少し異なります。高額なものを大量に買うというよりは、実用性の高いものや、日本人の日常の中で実際に使われているものに関心を持つ傾向があります。
ー観光客向けのお土産とは少し違うのですね。
三木:はい。たとえば、日本人に人気の生活雑貨や日用品、便利グッズ、ドラッグストア商品、食品など、「日本人は普段どんなものを使っているのか」に強い興味があります。特に在日台湾人や訪日経験の多い人を通じて、日本で流行っているものの情報が継続的に入ってきやすい環境もあります。そのため、日本で話題になった商品が、少し遅れて台湾でも注目されることも少なくありません。
また、台湾では日本の商品が日常的に流通しているため、日本ブランドやメーカーへの認知も高いです。そのなかで、「日本限定の味」「日本限定デザイン」といった限定性が加わると、一気に購買意欲が高まる傾向があります。見たことのあるブランドだからこそ、ここでしか買えないという価値が効きやすいのです。
ーどのような商品が刺さりやすいのでしょうか。
三木:高価格帯のラグジュアリー商品よりも、日常の中で使いやすい実用的なアイテムが好まれやすい印象です。たとえば生活雑貨や調味料、美容関連グッズなど、価格的にも手に取りやすく、帰国後も日常で使い続けられるものが支持されています。旅行中の買い物も、“特別な贅沢”というより、“日本の良いものを暮らしに取り入れる”感覚に近いのかもしれません。
情報収集の主戦場はInstagram、Threads、Facebookグループ
ー台湾人観光客は、どのように日本旅行の情報を集めているのでしょうか?
三木:一番大きいのはInstagramです。特に10代後半から30代前半では、日本と同じように日常的に使われています。台湾では日本旅行に特化したインフルエンサーも多く、旅行の予定がまだ決まっていなくても、気になった投稿を保存しておく、リールを見て候補地をストックしておく、といった行動がよく見られます。
ーInstagram以外にも特徴的なSNSの活用はありますか?
三木:台湾ならではの特徴として、Threadsの利用が非常に活発です。日本以上に日常的な情報収集ツールとして使われていて、若年層を中心に「何かを調べるならまずThreads」という感覚もあるほどです。
Instagramがビジュアル中心なのに対して、Threadsは本音ベースの口コミや質問のやり取りが活発です。たとえば「日本のコンビニで買うべきものは?」「スーパーでおすすめの調味料は?」「このエリアのおすすめは?」といった投稿に対して、フォロワー以外も含め多くの人がコメントを寄せ、そこで情報が集まっていきます。今知りたいことを、その場で多くの人に聞ける場所として機能しているのが特徴です。
ー日本とは用途が違っているのですね。他にも活用しているSNSはありますか?
三木:Facebookはよく使われており、特に30代後半の人はよく活用しています。なかでも特徴的なのがFacebookグループです。たとえば「東北旅行」のようなグループに参加し、過去の投稿を見たり、実際に行った人へ直接質問したりしながら情報収集する使い方が根付いています。
このように台湾では、Meta系プラットフォームが情報流通の中心になっている点が大きな特徴です。旅行前の認知から比較検討、直前の不安解消まで、複数の接点をMeta上でカバーしやすい市場だといえます。
ー最後に、台湾向けマーケティングを検討する企業様へ、重要なポイントを教えてください。
三木:台湾からの観光客は韓国同様、リピーターが非常に多いです。そのため、初めての訪問向けの王道訴求だけではなく、「次はどこに行くか」「今回は何を体験するか」という再訪前提のコミュニケーション設計が重要になります。
また、台湾人観光客は、日本人の日常やリアルな人気に敏感です。観光客向けに作られた情報だけでなく、日本人が実際に使っている商品や訪れている場所を起点とした“日常接続型”のコンテンツ設計が購買や来訪意欲の喚起につながります。
さらに、情報収集ではInstagram、Threads、FacebookグループといったMeta系媒体の活用が有効です。見た目の魅力だけでなく、口コミ性や会話性を意識したコンテンツ設計を行うことで、比較検討段階にも入り込みやすくなります。
台湾市場に向けた施策では、単発の集客ではなく、リピーターが“次も日本に行きたくなる理由”をどう設計するかが鍵になります。地方、季節体験、日常消費、SNS上の会話までを一体で捉えながら、継続的な接点づくりを進めることが重要です。
※1 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月推計値)」
https://www.jnto.go.jp/news/press/20260121_monthly.html
※2 観光庁「インバウンド消費動向調査(旧 訪日外国人消費動向調査)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/gaikokujinshohidoko.html
※3 總統府公布紀念日及節日實施條例 今年下半年增3天假
https://www.cna.com.tw/news/aipl/202505280160.aspx