COLUMN

変化する中国市場の訪日需要 コアなリピーターと超富裕層が牽引する新たなインバウンド戦略
【インバウンド・アウトバウンドマーケティングトレンド連載 Vol.4】

爆買いからコト消費へ。旅行スタイルの変化と中国独自のSNS活用を読み解く

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当社は、インバウンド・アウトバウンド領域におけるマーケティング支援に注力しており、調査・分析を担う「インバウンド消費行動研究室」と、広告主企業のマーケティング支援を担う「インバウンド事業本部」の2つの専門組織を有しています。

本連載では、両組織が蓄積してきた調査研究・マーケティングの知見をもとに、各国の旅行者の行動や価値観、最新のマーケティングトレンドを読み解きます。

第4回は中国市場を取り上げます。中国は訪日客数・消費額ともに高い存在感を示しています。一方で、訪日の目的は「モノ消費」から日本ならではの文化や体験を楽しむ「コト消費」へと変化しており、企業に求められる中国市場向けマーケティングは、「爆買い」時期とは異なる発想が必要になっています。
本記事では、中国人観光客の最新トレンドをもとに、中国向けインバウンド戦略のヒントを解説します。

陳 沫言

株式会社サイバーエージェント インバウンド事業本部

陳 沫言

2025年よりサイバーエージェント インバウンド事業本部に所属。化粧品、日用品、小売、ホテル、飲食など幅広い業界の日本ブランドを担当し、中華圏をはじめとする世界各国からの訪日プロモーションのプランニングに従事。訪日消費者のプラットフォーム接触行動と購買動線を起点に、各国のSNS、OTA等を活用したマーケティング戦略の立案から、現地の感性に合わせたクリエイティブ企画、最適なソリューション提案までを一貫して手がける。

「爆買い」の時代は終わった。それでも中国市場が訪日消費を牽引し続ける理由

─日本は中国の方々からどのように見られているのでしょうか?

:日本は中国人にとって「一度は訪れたい国」として高い人気を誇ります。
若年層ではアニメやゲームの舞台を巡る聖地巡礼への憧れが根強いです。また、日本食も中国の都市部では日常的に親しまれる存在になっています。また、日本製品は「品質が高く、安心して使える」というイメージが定着しており、特に医薬品に対する信頼は非常に高いですね。

近年は、旅行そのものの楽しみ方も変化しています。以前は「日本で買い物をする」ことが旅の目的でしたが、今は着物を着て街を歩いたり、日本らしい景色を背景に写真を撮ったりと、日本文化を体験することそのものに価値を感じる人が増えています。「日本文化=写真映えする体験」として楽しむ若者も多く、旅行の楽しみ方は以前とは大きく変わりました。

2025年の訪日中国人客数は909万6,300人と前年比30.3%増となり、韓国に次ぐ第2位まで回復しました(※1)。さらに旅行消費額は2兆58億円に達し、国別では世界第1位(※2)となっています。インバウンド全体の旅行消費額約9.5兆円のうち、およそ21.2%を中国市場だけで占めており(※2)、経済的なインパクトは依然として非常に大きい市場です。

─数字だけを見ると、かつての「爆買い」が戻ってきたようにも感じます。

:実は、消費の中身は大きく変わっています。以前はドラッグストアや家電量販店で大量の商品を購入する「爆買い」が象徴的でした。しかし現在は、宿泊や飲食、日本文化を体験するアクティビティなど、「コト消費」へのシフトが完全に定着しています。

背景には2つの変化があります。
1つ目は、コロナ禍を経て「旅行でしかできない体験」を重視する価値観へ変わったこと。2つ目は、中国国内でECが急速に普及し、日本の商品を現地でも購入できるようになったことです。

しかし、日本製のお菓子や医薬品など、持ち帰りやすい商品は現在でも根強い人気があります。そのため、中国市場は「モノを買う市場」から、「日本ならではの体験にお金を使う市場」へと大きく変化しているといえます。

中国市場の夏商戦は約2カ月続く。世代ごとに異なる旅行ニーズを捉えることが重要

─まず、中国市場ならではの夏商戦について教えてください。

:中国市場の夏は、韓国や台湾のように「この連休が最大の山場」という分かりやすいピークがありません。
中国の学校は多くが7月初旬から8月末まで約2カ月間の夏休みに入るため、7月、8月を通して訪日需要が高い状態が続きます。2025年も両月ともに訪日中国人客数は100万人規模に達しており(※3)、企業にとっては「夏休み期間全体」を一つの商戦として捉えることが重要です。

また、この時期は大学生の旅行需要も非常に高まり、友人同士やカップルで訪れるケースが多いです。一方で、子どもの夏休みに合わせて旅行を計画するファミリー層も多く、幅広い世代が動くシーズンでもあります。

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─夏だからこそ人気が高まるコンテンツもありますね。

:そうですね。代表的なのは花火大会です。なかでも新潟県の長岡花火大会は、中国でも年々認知度が高まっています。旅行会社を通さず、Fliggy(※)などの代行サービスを利用してチケットを手配し、花火を目的に来日する旅行者も増えています。
※アリババグループが運営するオンライン旅行サービスプラットフォーム。航空券、鉄道チケット、宿泊施設、レンタカーなど旅行に関する包括的なサービスを提供している。 

人気の理由の一つは、日本ならではのスケール感です。中国でも花火はありますが、旧正月などに家族で楽しむ小規模なものが中心です。一方、日本のように何万発もの花火が夜空を彩る大規模な花火大会は珍しく、人気につながっています。
日本のアニメやドラマには、花火大会を舞台にした印象的なシーンが数多く登場します。そのため、「アニメで見た景色を実際に体験したい」という思いから来日する若者も少なくありません。また、女性は浴衣を着て写真撮影を楽しむ方も多いです。

─一方で、冬はどのような動きになりますか?

:冬は旧正月(春節)が最大の商戦になります。中国では年末年始の休暇は比較的短いため、5泊以上のまとまった旅行を計画しやすい旧正月に訪日需要が集中します。

また、夏と冬では来日する層も変わります。
夏は学生や若年層、カップルなど比較的コストパフォーマンスを重視する旅行者が多い一方、冬は富裕層ファミリーによる旅行が増えます。ニセコや北海道の高級リゾートなどはその代表例で、日本ならではの雪景色や上質な滞在体験を求めて訪れる方が多く見られます。
季節によって旅行者層やニーズが大きく変化することも、中国市場の大きな特徴の一つといえます。

「団体旅行」から「二極化」へ。コアなリピーターと超富裕層が中国市場を牽引する

─ここ数年で旅行スタイルも変わってきていますね。

:そうですね。現在の中国市場は二極化が進んでいると考えられます。
以前の中国人観光客といえば、大型バスで各地を巡る団体旅行のイメージがあったかと思いますが、直近はそのような旅行スタイルは減っています。
今、日本を訪れている中国人旅行者の中心となっているのは、“何度も日本を訪れているコアなリピーター”と、“質の高い体験を求める超富裕層”の2つに分かれます。

実際に2025年のデータでは、初訪日は44%に対し、訪日2回以上は56%と過半数を占めています。さらに、訪日5回以上の旅行者も24.2%(※4)に達しており、およそ4人に1人が何度も日本を訪れているリピーターです。
そのため「初めて日本へ行く人」を想定した情報発信だけでは、現在の中国市場には十分届かなくなってきています。

─リピーターには、どのような地域が人気ですか?

:東京、大阪はもちろん、箱根や熱海、神戸などへ足を延ばす旅行が増えていますが、近年はさらに地方への関心も高まっています。

尾道は、レトロな街並みや猫の街として知られ、瀬戸内国際芸術祭の開催時期に限らず、国内外から多くの観光客が訪れます。歴史ある街並みを散策しながら、ゆったりとした時間を過ごせることが人気の理由です。

鳥取も注目度が高まっています。20〜30代の若者は、砂丘という中国にはあまりない景観をSNSに投稿する目的で訪れるほか、アニメの聖地巡礼を楽しむ方もいます。また、マグロやカニなど日本ならではの海鮮を目的に訪れる旅行者も増えています。
 

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─もう一つの軸である超富裕層は、どのような価値を求めているのでしょう。

:超富裕層が重視するのは、場所の他に限られた人しか体験できないことです。
例えば、ミシュランの星付き寿司店やフグ料理店、常連客の紹介がなければ予約できないような専門店など、知る人ぞ知る名店への関心が非常に高いですね。
また、温泉旅館への滞在や着物体験、ヘリコプターによる遊覧飛行など、日本文化を特別な形で体験できるコンテンツも人気です。

今後、中国市場の展開を検討する企業にとって重要なのは、中国人向けという一括りの発想ではありません。何度も日本を訪れているリピーターなのか、それとも特別な体験を求める富裕層なのか。それぞれの価値観や旅行目的に合わせて提案する内容を変えることが、これからのマーケティングではますます重要になっていくと考えています。
 

中国人は「RED」で旅先を決める。SNSごとの役割を理解することがマーケティング成功の第一歩

─情報収集の方法にも特徴があるそうですね。

:はい。日本では複数のSNSを目的ごとに使い分ける方が多いですが、中国市場では、それぞれのSNSに明確な役割があります。
なかでも最終的な意思決定を大きく左右しているのが、小紅書(RED)です。

REDは、中国の若年層を中心に利用されているライフスタイルプラットフォームで、SNS・口コミメディア・ECの機能を兼ね備えています。旅行先や飲食店、コスメ、ファッションなど、あらゆる情報を検索し、そのまま購買や予約までつなげられることが特徴です。
現在の月間アクティブユーザー数は約3億人。利用者の約7割が女性で、35歳以下が中心となっており、訪日旅行者のボリュームゾーンとも重なっています(※5)。

─REDならではの特徴を教えてください。

:REDには写真だけでなく、アクセス方法や営業時間、予算感、予約方法などがブログのように詳しくまとめて投稿することが多いです。

特徴的なのがコメント欄の文化です。気になる投稿を見つけると、「このお店はどこにありますか?」「予約は必要ですか?」「今も営業していますか?」など、投稿者に直接質問することが一般的です。投稿者もリアルタイムで返信することが多く、コメント欄そのものが情報源になっています。

企業アカウントも増えていますが、一方的に情報を発信するだけでは十分ではありません。
コメントへの丁寧な返信やユーザーとのコミュニケーションを通じて信頼を積み重ねることが、REDでは非常に重要になります。
 

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─SNSごとの使い分けも教えてください。旅のプランを考えるにあたって、使う順序はありますか?

:はい。その他のSNSも目的に応じて使い分けています。旅のきっかけになることが多いのが、中国版TikTokであるDouyin(抖音)です。ショート動画を眺めている中で、おすすめのグルメや観光地に出会い、旅行意欲が生まれます。ただ、Douyinは興味を喚起することには優れていますが、詳細な情報収集には向いていません。

そこで次に利用されるのが、REDやbilibiliです。bilibiliはYouTubeのような長尺動画プラットフォームです。投稿されている日本旅行の長尺動画を見ることで、旅行ルートや街の雰囲気、移動時間まで具体的にイメージできるため、旅行前のシミュレーションとして活用されています。

そのうえで最終的にREDへ戻り、お店の場所や営業時間や予約方法、口コミを確認し、意思決定する流れが一般的です。
そのため、中国市場では“Douyinで出会い、bilibiliで理解し、REDで決める”という情報収集行動が定着していると言えます。

─最後に、中国向けマーケティングを検討する企業様へ、取り組みを進めるうえで重要なポイントを教えてください。

:日本企業では、「REDを始めれば中国向けマーケティングができる」と考えられることも少なくありません。しかし実際には、それぞれのSNSが担う役割を理解し、組み合わせて活用することが重要です。

例えばDouyinでは短尺動画で認知を広げ、bilibiliでは旅行体験やブランドストーリーを丁寧に伝える。そしてREDでは検索されることを前提に情報を蓄積し、コメントでユーザーとのコミュニケーションを重ねながら信頼を獲得していく。

中国市場では、こうしたSNSごとの役割を踏まえて設計された情報発信こそが、旅行先や購買先として「選ばれる理由」につながっていきます。




※1 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月推計値)」
https://www.jnto.go.jp/news/press/20260121_monthly.html
※2 観光庁「インバウンド消費動向調査の結果(2025年年間 報告書)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/gaikokujinshohidoko.html
※3 JNTO(日本政府観光局):国籍別 訪日外客数データ
https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/
※4 観光庁「インバウンド消費動向調査の結果(2025年年間 集計表)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/gaikokujinshohidoko.html
※5 RED情報「2025年「アクティブユーザー数」調査レポート(小紅書プラットフォーム)」
https://www.qian-gua.com/information/detail/3149



 

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