2015/6/1 Mon
SEMの運用に求められるものがどう変わってきたか〜複雑さを極める今の時代に求められるもの〜
複雑さを極める今の時代に求められるもの
中田 裕司
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 エグゼクティブコンサルタント
某消費財メーカーを経て、SEM事業を展開するサイバーエージェントの子会社に入社。その後本体に吸収合併となり、現在に至る。
前回のコラムでは自動入札ツールが注目されたものの、その価値を適切に定義することができず、多くのクライアント様において、再びマニュアル管理に戻ったという話をお伝えしました。
(
第2回:SEMの運用に求められるものがどう変わってきたか~「人」から「ツール」へ。そしてまた「人」へ~)
さて、本コラム「SEMの運用に求められるものがどう変わってきたか」は、今回で最後となります。
SEMのプラットフォームは、現在に至るまで、毎月のように新しい機能が続々とリリースされ、目まぐるしいスピードで進化を続けています。
また、いつの頃からか、クライアントが運用代理店を選定される際の基準が、「どこの代理店に任せるか?」から、「どこの代理店の『誰に』運用を任せるか?」に変化してきました。
昔とは比べようのないほどに施策のバリエーションが広がっているため、どこからどのように手をつけ、広告効果の改善行っていくべきか?というコンサルティングは、個人によって大きく異なってきてしまうため、「どこに?」だけではなく、「誰に?」という判断は、当然の流れであったと思います。
それでは、「代理店」と「運用者個人」の側面から考えていきたいと思います。
「どこの代理店に?」から、「どこの『誰』に?」
まず代理店としては、誰が担当しようとも、変わらず高レベルのサービスをクライアントに提供することを目指さなくてはなりません。
現実的には非常に難易度が高いことではありますが、それを実現するために各社、体制を整えています。
当社では、運用をサポートするためのインフラや仕組み作りに注力をしています。レポートの出力を始めとして、SEMを運用するために必要なもの集約されている社内ポータルや、入稿などの運用サポートを一手に担う子会社の株式会社CA ADvanceと連携し、高品質運用を実現しています。インフラ面については、長い年月をかけ高いレベルまで磨きがかかってきています。また最近では、属人的になりがちなPDCAの仕組み化やルール化の整備に力を入れています。
一方、「運用者個人」において、今のSEMの運用において求められることは何でしょうか?
一昔とは異なり、先述の通り、運用のインフラ面や仕組みが充実してきているので、数十つのアカウントに対して、一回一回ログインしてレポートを作成する必要も、数千のキーワードを管理画面からポチポチ入稿する必要もありません。
私が考える、今のSEMの運用において必要な能力は「設計力」です。
そして、その設計力は以下の3つだと考えます。
①「環境」の設計力
②「優先順位」の設計力
③「運用フロー」の設計力
①「環境」の設計力
インターネットの世界ではあらゆるデータを取得することができ、そのデータを活用して運用することが重要となります。
例えば、クライアントのビジネスモデルにおいて、何を成果として計測すれば良いのか?といった場合。
新規ユーザーのROASを運用指標としているのであれば、何らかの手段で新規ユーザーを識別した上で、それぞれの購入金額を取得できるように計測環境を設計しなければなりません。また、今やDisplay広告の中心となっているリターゲティング広告の広告効果を上げるためには、タグマネジメントツール等を駆使し、感度の良い切り口でユーザーリストを設計することが必要となります。
更には、配信後の実績に対し、アカウントの状態が適切に評価できるようなレポートフォーマットや、BIツールなどの環境設計も重要な要素となります。
② 「優先順位」の設計力
前述の通り、SEMのプラットフォームには多種多様な配信機能が実装されており、その気になればいくらでも施策を行うことができます。
しかしながら、それら全てを一度に実施することはできません。時間的な制約や、運用リソースの制約を鑑みた上で、どの施策を、どのような優先順位で実施するか、ということを設計することが重要となります。
工数がかかる割に、ほとんど成果に結びつかない施策を実施したところで、誰もハッピーになりません。適切に優先順位をつけるためには、施策をひと通り洗い出した上で、想定される施策のインパクトの大きさと、それを実装するための工数と時間を十分に勘案することが必要となります。
そのためには、アカウントの現状のコンディションを正確に把握する力と、施策のインパクトを見立てる力と共に、施策が実装されるまでの工程が細部までイメージできていることが必要です。
③「運用フロー」の設計力
これは、①「環境」と、②「優先順位」をも包含した、運用全体の大きな流れの設計です。
SEMの運用には、入札単価の変更や、掲載商品の新規追加などに伴うキーワードや原稿の追加、検索クエリからのキーワード追加や除外ワードの設定など、いわゆるルーティン的な施策が多く存在します。それらをいかに無理なくスムースに実行できる運用フローを設計するか、といった点も運用者の腕の見せどころです。
レポート作成も同様です。どのツールから、どのような実績を引っ張ってきて、どのデータと突合させ、どのように視覚化し、それをどれくらいの頻度で作成、確認するかということも非常に重要な設計の1つと言えます。
個人的な感覚かも知れませんが、この「運用フロー」の設計というものには、一種の”美しさ”が存在すると考えています。最終的なアウトプットは同じであっても、そこに至るまでのアプローチは何パターンもあります。その中で、シンプルであり、正確なものが生み出せる運用フローこそが美しいのだと思います。
そもそも正確でなければ価値はありませんし、シンプルでなければ継続性を保つことが難しくなってしまいます。エンジニアの方々が言う“ソースコードの美しさ”に近しいものではないでしょうか。
上記のような3つの設計力を高めるために、私が日々意識していることは、物事の基本から丁寧に理解を重ねていく、ということです。
「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何者でもない」という言葉がありますが、物事の表層のみを知るのと、物事の基本を理解するのではアイデア(発想)の幅が大きく変わってきます。
昨今、アドテクノロジーと言われる分野が大きく発展していますが、例えばGoogleの動的リマーケティングを理解する際に、「Googleの動的リマーケティング」というプロダクトとして理解するか、そのプロダクトを構成している技術、CookieやJavaScriptやfeed等を理解するかによって、運用の幅は大きく変わります。
ひいてはWEBサイトがどのように作られているかという部分まで理解すれば、これまでとは異なった切り口でユーザーリストの設計ができるようになるかも知れません。
SEMのプラットフォームは、今後も進化を続けていくことになろうかと思いますが、それらを活用し広告を配信する先には、常にユーザーが存在します。そこにいるユーザーが何を求めているかを思考し続けるということは、テクノロジーがどれだけ発展したとしても、SEMを運用するために必要とされる『根幹』であることに変わりはありません。
全3回に渡るコラム「SEMの運用に求められるものがどう変わってきたか」にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
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