2015/8/28 Fri
SEMにおける「細分化」と「集約」:2
瓜生 翔
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 エグゼクティブコンサルタント
2011年、サイバーエージェントへキャリア入社。
1年半のアカウントプランナー経験を経て、SEMコンサルタントへ転身。
2014年8月、プロフェッショナル職としての最高ランクであるエグゼクティブコンサルタントに昇格。
同年10月、サイバーエージェントグループ総会にてベストプレイヤー賞を受賞
SEMにおける「細分化」と「集約」~後編~
前編のコラムの冒頭で、運用型広告というものは、SEMに限らず“場合分けの広告である”、そして場合分けを行う方法は、基本的には“細分化”であるが、細分化すればするほど良い結果につながるかというと、必ずしもそうではないということをお話しました。
理由は大別すると3点あり、前編では、①「データ容量」の観点についてお伝えしました。後編では残りの②「モニタリング」の観点、③「統計量」の観点についてお伝えしていきます。
②「モニタリング」の観点
■レポートの粒度は細かいほど良い?
細分化と集約を考える上での“モニタリングの観点”とは、例えば、毎日見るレポートの粒度をど う設定するのが最も理想的なのか、といったことです。前編でも書かせて頂いた通り、全ての“場合”において、その検索行動の性質というものは厳密には異な るはず、という前提に立てば、毎日の変化を追う粒も、細かければ細かいほど厳密であり、正しいように思えます。
ただ実際には、モニタリン グを行った上で何らかの判断を下すのが人間である以上、(例えばデイリーでレポートを見るような場面において)パフォーマンスを判断し、変化を追い、変化 に応じてアクションすることが可能な数には限度があります。また、あるトレンドを有意なものであると判断するにも、必要となる規模感があります。
したがって、闇雲に細分化することはむしろマイナスにも働きうるものであり、あくまでも適正な数の範囲において、可能な限りそれぞれの性質をMECEに、そして意味のある規模感を持たせて分けることが妥当、ということになります。
■最適な粒度を探る
こ の“分け方”に、唯一絶対の正解があるわけではありません。属する業種業界、業界内におけるポジション、出稿規模、アカウントの物理的特徴、運用者のスキ ルレベルなどによって、理想形は様々に存在し得ます。また切り分ける軸自体に関しても、いわゆる意味分類や、「BIGワード」「テールワード」のような一 般化されたものだけではなく、様々な軸を発想し、そして活用すべきであると私自身は考えています。
それらしいレポートは見ている。しかし ながら、裏側で起こっている変化や事象が全く見えてこない。追えない。そのような場合は、セグメンテーションに工夫が足りない可能性が高い、と言えるで しょう。レポート設計のスキルによって、その運用者のスキルレベル自体が測れると言っても過言ではないと思います。
とにかく細分化すれば いいわけではなく、また、集約すればいいわけでもない。モニタリングしたい内容やその時間軸によっても、最適な粒度はそれぞれ異なります。アカウントを最 適化するために行うモニタリングですが、そのモニタリングという行為自体にも、まさに最適化が必要なのです。
③「統計量」の観点
さて、最後の“統計量の観点”に関してお話します。ここで言う「統計量」は、Google AdWordsなど広告配信システム側が、何かしらの数的判断を行う上でのサンプルのことを指しています。数的判断が行われるシーンは無数にありますが、今回扱うテーマはふたつ。
ひとつは、“ローサーチボリューム”。もうひとつは、“コンバージョンオプティマイザー”に関してです。
■広告の質の評価
まず、“ローサーチボリューム”とは、インプレッションボリュームが過少であることを背景に、配信システム側に「掲載に足る質を持たない広告である」と判断されてしまった広告を指します。何故このような判断がなされるのでしょうか。
例 えばAdWordsは、どんな“場合”の検索に対して、どんな広告を返せばよりクリックされやすいか、グローバルで常に膨大な量の統計処理を行っていま す。そのため、少しでも無駄な処理を削減し、不必要なシステム負荷を排除したいと考える中で、極端にインプレッションの少ない広告を“ユーザーの検索とほ とんど関連しない広告(と同時に、収益につながらない広告)”とみなして、処理から弾くようにしているのです。
そんな“ローサーチボ リューム”という評価を、システムがあるキーワードに対して下した場合。実は、真に世の中でその語句が検索されていないケースと別に、検索はされている が、何らかの別の理由によって、単にその(コンポーネント[※1]としての)キーワードのインプレッションボリュームが過少になっているというケースも存 在します。
つまり広告配信システム側は、一定のインプレッションとクリックの統計量で、掲載に足る質を持つ広告か否かの数的判断を下しているのです。
後 者のケースの場合、本来は掲載できたはずの広告が掲載できなかった−−すなわち、本来は獲得できたはずのインプレッションが獲得できなかった、ということ になり得ます。インプレッションを獲得できなかったということは、大雑把に言えば、コンバージョンにつながる機会を獲得できなかったということでもありま す。
(※1:コンポーネント……アカウントを構成する要素。具体的には、「キーワード」や「広告グループ」「キャンペーン」などを指します)
■本来の質を判断させる
この状態を回避するには、システムが“その広告が持つ本来の質”を判断できるよう、必要な統計量を与えてや る事が解決策という事になります。例えば、複数のキーワードをひとつの広告グループに集約し、紐付く広告に対して、その分のインプレッションを集中させる といったことも考えられるでしょう。ただしこのアプローチには、現在の配信システムの仕様を考えた場合、入札単価調整の柔軟性を失うというデメリットも同 時に存在します。やはりここでも、どの程度集約をするのか、どこからどこまでを集約し、どこからどこまでは細分化をするのか、という判断が重要となるわけ です。
■AdWordsは人工知能
次に、AdWordsのコンバージョンオプティマイザー、通称“CO”に関して。
CO は、配信システム側の進化と日々の最適化により、かなり精度が向上していると関係者の皆様も実感されているのではないでしょうか。COを有効に機能させる 上でいくつかのTipsがありますが、その中に、コンバージョンボリュームをひとつの(あるいはいくつかの)配信ユニットに集約させるという考え方があり ます。
ある広告インプレッションが、どの程度コンバージョンにつながる可能性を秘めているのかを予測する上で、AdWordsは、我々が 管理画面のフロントエンドから見ている以上の多くの変数を参照しています。そのアカウントでは、どういった変数においてどのような傾向があるユーザー(≒ インプレッション)がコンバージョンの見込みが高いのか?ターゲットとするCPAを考えた場合、そのインプレッションを獲得する上で許容できるCPCはど の程度なのか?といったことを計算するわけです。広義では人工知能であるとも言えます。
■戦略的な“集約”
人工知能は、天文学的な計算量をこなす事で何かしらの予測値を導いたり、その予測値を算出する上での特徴量自体を見出したりといった事は得意ですが、そもそもの特徴量をとらえる元となるサンプル、すなわち統計量が不足する場合、有効に働く事ができません。
し たがって、特にサービス特性としてコンバージョンの絶対数が少ないようなアカウントに関しては、先述の通り、戦略的にコンバージョンデータをひとつ、ない しはいくつかの配信ユニットへ集中させるのが、人工知能の計算の有効性を高める上でより望ましいアプローチとなり得るのです。
AdWordsに関しては、“Powerful Bidding”など、配信ユニットを集約させても入札の柔軟性をある程度担保できる機能が備わっているため、望ましい“集約と細分化”を行うには、こうした機能をフルに活用する事も必須となるわけです。
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