2020/3/4 Wed
ー Vol.3:”なにが面白いの?”って言われたことないでしょ!
【連載】:クリエイティブディレクター ”トオルに訊け!”
田中 トオル Toru Tanaka
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部
エグゼクティブクリエイティブディレクター
中橋 敦 Atsushi Nakahashi
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部
ブランドクリエイティブ部門 局長 兼
クリエイティブディレクター
桑原 誠尚 Sena Kuwabara
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部
ブランドクリエイティブ部門
プランナー
[前回記事はこちら]
「クリエイティブディレクター ”トオルに訊け!”」
>>>【vol.1】「照れくさいけれど、マジメな話しましょうか?」
>>>【vol.2】「カンヌ広告祭のエントリーって?」
”How to say” ”What to say
CAトオル:サイバーエージェントに入社して、凄いなと思ったのは、”
How to say” の技術部分。この、
デジタルを使ったHow to sayの技術はサイバーエージェントはぶっちぎりだな、というのが僕の第一印象です。
逆にいうと、”What to say” はあまり気にしていないのかな、という印象も持ちました。
プレゼンの企画書でも、How to sayの部分がすごく分厚くて、What to sayが少なかった。
僕がサイバーエージェントにきて1年半経ちますが、「この企業にしか言えないことを、CAでしかできないやり方で解決するというプレゼン企画にしないと、勝てないのではないかな?」ということです。
”What to say” をきっちり作ろうと、ずっと気をつけています。
―"What to say" 、総合代理店は強いものですか?
CAトオル:やはりWhat to sayは上手に掴んでると思う。社内に、強い先輩がたくさんいて、「トオル、これどこが面白いの?」ってチームの面前で言われますからね。
すごく鍛えられました。
電通は自分で自分の先輩アイドルを見つけて、その人に習う、という感じで。博報堂は、原田さんに伺ったところによると、組織的にやっているみたいですね。それはそれで羨ましいです。
電通の時の、僕の最大のアイドルは杉山 恒太郎さんでした。杉山さんがいろいろ見せてくれたことや、紹介していただいた方々が、後々とても役に立ちました。
広告表現が変わるタイミング
―時代、働く場所を様々経て、トオルさんから見て、広告ってこんなふうに変わっていっているな、と感じるタイミングはありますか。
CAトオル:一番変わるのは、新しいメディアができた瞬間。そのタイミングで広告表現方法が変わるんですね。
例えば昔、新聞しかなかったときにラジオができると、今までの新聞広告と、“How to say” が変わる。ラジオの次はテレビ、テレビの次にインターネット、インターネットの次にガラケー、スマートフォン。この先はVRなのかなぁ?
そのたびにHow to sayは変わりますが、“What to say”をきちんとしていれば、どのメディアでも展開できるはずです。
例えば新聞広告では、やはりコピー主体の勝負になりますが、テレビになると15秒という時間との勝負がある。今だと、スマホで6秒とか言われていますが。
マス広告からインターネット広告、スマホ広告になって、How to sayが最も変わったのは、ユーザーに受け身で見てもらえないということです。ラジオもテレビも強制視聴媒体ですから。
どうやったらスマホで能動的に見てもらえるか?ということを考えなくてはいけない。例えば、起承転結の”結”を先に見せなければいけないとか、そういうことです。
サイバーエージェントにきて、How to sayの「How」がすごく変わったな、変わっていくんだろうな、ということをすごく実感しています。
それを毎日、日常的に見させていただいています。AIがこれからのHowを変えるのではないでしょうか?
逆に、根本的にはWhat to sayがきちんとしていれば、メディアが変わってもいい広告はできるはずなので、What to sayをもっと突き詰めたいなとも思っています。
CA中橋:僕もすごく気にしている点です。あと、What to say と How to say 、それぞれ突き詰めていくことに加えて、”どう掛け算するか?” をデザインすることも重要だと思ってます。それはWhat to sayを研ぎ澄ましてきた先輩たちに勝つための一つの方法だと思ってます。
インフォメーションとして正しく届ける役割と、エモーショナルに訴えかける役割の両方を担っていかないといけないですし。
CAトオル:クライアントによっては、「デジタルって、速くて安くできるでしょう?」という偏った常識が一部には広まってしまっているとも思っています。それは業界の僕らが少しずつ変えていかなければいけないと思います。
「今日頼めば明後日できるでしょう」という感じになっていってしまうと、How to sayはできるけれど、What to sayが疎かになってしまう。アイディアって「寝かせ」が必要です。
―今の時代に広告の仕事をしている若者に向けて、今だからこその広告の面白さや醍醐味って、トオルさんから見てどういうところに感じますか。
CAトオル:簡単に言えば、技術が進んで、クリエイターにとってチャンスがフラットになった。
昔は、カメラマンは機材のことを覚えるだけで3年かかって、師匠について、やっと5年経つと技術的なことが分かって、そこから、本番という順番でした。
その間にカメラマンがどうやって被写体と向き合うか、クライアントとどう付き合うか、自分の体力の限界はどこにあるか、などと考える時間があった。
今はそういう意味では、技術はデジタルでフラットになったので、すぐになれます。
一方で、そうなると例えば5年間写真を撮りたいなと思いながらいろいろ悩みながら考えて覚えていく、という時間が無くなってしまった分、何かを失っているのかもな、とも思ったりもします。
僕は入社してからいつも、自分のコピーが早く活字になることばかり祈ってました(笑)。
仕入れもなく、在庫もなく、自分の頭の中でゼロから作って商品が売れるというのは、多分、広告の醍醐味ではないですか。
芸術は、テーマ、モチーフを自ら見つけてそれが売れるようになるまで大変ですよね。
広告は、芸術と違ってクライアントからテーマを与えられるということが大きな違いです。
CA中橋:そうですね。テーマを与えられてチームで対峙していく。いつも新しいミッションに立ち向かっていける環境は刺激的です。
一方で、先ほどのトオルさんのお言葉を借りると、「フラットなチャンス」を活かしてるクリエーターもどんどん出てきていると思います。
YouTuberやインフルエンサーもそうですが、自らテーマを見出して作品を出している。時代のウネリの中でテーマは日々生まれているはずなので、これからの広告クリエーターも、自らテーマを見出す重要性が増してくるような気がしています。
―最近の案件をみているなかで、当時の電通の頃と比べて、時代変遷によって感じる変化ってありますか?
CAトオル:クライアントがよりせっかちになったなと思います。
やはり昔はカメラマンが撮ってから、現像して、プリントするまでの時間が必要でしたが、今はその場でモニターを見てチェックできる。そうするとその場で直しが入る。
今だと、クリエイターが自分で撮って、編集して、音声入れて、ということが技術的に可能ではないですか。How to sayが随分変わっていますよね。
CA誠尚:自分でいろいろな業務ができてしまう時代ですけど、全部やったほうがいいのか、それとも何か一つ自分で研ぎ澄ますものを持っていたほうがいいのか。今の時代を考えたときにどうみていますか?
CAトオル:僕はこれだけ技術が進んだから、何でもできる人がすごく増えてしまうと思う。だからその中で、超絶速くて、超絶上手くなるか、もしくは、極端にコピーは誰にも負けない、とかどちらか何か尖ったものがあったほうがいい。
あと僕がひとつ疑問視していることとして、自分で企画して、撮って、編集して、音入れて、というのは、誰がNGを出すのかな?ということがすごく不思議なの。
「これ企画はいいけどちょっと撮影方法がね」とかっていうことをCDは言うじゃない。でも全部自分でやるとなると、誰が自分に、どうNGを出すのだろう?って。
例えば誠尚君がコピーを書いてきて、僕がいまいちだな、というのがなくなって、誠尚君の中で完結するわけでしょう。もしかしたらいくつも作って、運用結果でNGが出るということかもしれないですね。
CDとしてはちょっと寂しいなぁ。
CA誠尚:逆に考えると、YouTuberの方とかは、そういう意味では完結してますよね。完結して、人によっては滅茶苦茶当たっている人もいて。
CA中橋:先輩にジャッジされるのか、配信プラットフォームにジャッジされるのか、視聴者の”みんな”にジャッジされるのか、クリエイティブの”承認プロセス”が多様化してますよね。
CAトオル:社内の人と話していてびっくりしたのだけれど、YouTuberって広告主企業と契約がないっていうんですね。「競合排除とかどうするの?」と聞いたら、「一回オンエアーしたものは競合も何も関係ないんですよ」って。それを聞いて、ルールが随分と変わったんだなと思った。
CA誠尚:昔の常識からすると、信じられないですよね。縛れないことは、トオルさん的にどう見えますか。
CAトオル:クライアントはどう思っているのかな、と思う。
例えばタレントと飲料メーカーA社が契約したら「契約期間中は、飲料メーカーB社に出ないでね」というようなことも、変わっていくのかな、どうなんだろう。
よくクライアントが文句言わないなって不思議。ちょっと前まですごく厳しかったのに、なんだよ〜と言いたいところもあります(笑)
でもYouTuberは、そういう自由なところが特に若い人にうけているわけでしょう、買い占められていない感じが。
だからタレント起用について拘束しないほうが、若年層には本物に見えるのだな、というのが新鮮です。
CA中橋:ルールのアップデートの方が追いついてないかもですね。ルールがきちんと定まっていないタイミングは、メリットもリスクもどちらも見定めにくいとも言えるので、嗅ぎ分けるセンス的なものも必要かもしれません。もうなんだか大変ですね笑
そんなときには、トオル先輩に速攻で聞きに行こうと思います。
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