2020/2/13 Thu
ーVol.2:カンヌ広告祭に行って、審査員をして、みえたこと。
【連載】:クリエイティブディレクター ”トオルに訊け!”
田中 トオル Toru Tanaka
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部
エグゼクティブクリエイティブディレクター
中橋 敦 Atsushi Nakahashi
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部
ブランドクリエイティブ部門 局長 兼
クリエイティブディレクター
桑原 誠尚 Sena Kuwabara
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部
ブランドクリエイティブ部門
プランナー
>>>前回記事、【vol.1】「照れくさいけれど、マジメな話しましょうか?」はこちら
カンヌ審査員から、新会社GT INCの設立まで
―トオルさんが初めてカンヌ広告祭に参加した時の様子、
またその後、ご自身で会社を設立されてますがそれはどういった経緯で?
CAトオル:電通時代、部長になってすぐに大きな賞を獲ったので、そのご褒美でカンヌ広告祭に現在TUGBOAT代表の岡康道さんと一緒に見学に送り出してもらいました。
その後2、3年して日本代表審査員として参加しました。
カンヌ広告祭で出会った審査員たちは世界中から来ますが、簡単にいうと、
“本当にCDらしい”というか、みんなすごい競争を勝ち抜いて偉くなった人たちでした。純粋に、「すごいな!」と!
会場では、皆違う会社から来ていますが欧米の代理店って多国籍に展開しているから、「以前あそこで一緒だったよね」とか「元気?今どこだっけ」という会話が繰り広げられている。みんな美しい奥さんを連れてきていて(笑)、僕だけポツンと一人で。完全にお客さん状態でした。
現地で審査を通じて仲良くなったCDと毎晩飲みながらいろいろな話をしていて分かったのですが、僕はてっきり会社からのご褒美で広告祭に来ているのかなと思ったら、事実は、日本からの審査応募本数が当時アメリカに次ぐ世界2位で、莫大な審査料がカンヌに入っている。ということで、主催者側としては、日本も一応呼んでおかなければ、ということだったのですね。
そして、日本が全く賞を獲れないということも分かってきました。当時、ナレーションやスーパーも英訳していないし、僕以外の審査員には、ほとんど理解できないんです。
完全にアウェイのお客さん状態の中、現地で面白い話や勉強になる話を色々と聞いている環境から、いざ東京に帰ると、今まで通りの管理職の仕事が増えていて。「うーん、何だかな」という感じでモヤモヤしていました。
それからしばらくして、電通が社内に戦略的な小さい局を作りました。クリエイティブ統括局、今のCDCの前身です。佐々木 宏さん局長の元、岡 康道さんや多田 琢くん、川口 清勝くん、僕とかが他局から異動して出来た小さな局です。
でもあっという間に岡さんたちが辞めて独立していき、そうして僕も刺激を受けて。ただ、岡さんたちほど度胸がなくて、ワンスカイという電通の関係会社を設立。
その3年後、いよいよ電通を退職し、電通から離れて、GTという新会社を作りました。
海外広告賞で勝ち抜くためのエントリー内容になっているか?
CA誠尚:本田技研工業さんの案件である『Honda “ORIGAMI”』の作品を、カンヌ広告祭に応募する祭に、審査員を経験されていたトオルさんに打ち出し方を相談させてもらいました。
世界各国から沢山のエントリーがある中、審査員が1日あたり一人100本、1,000本をスピーディーに判断していく世界で、その僅か一瞬で、企画のキモを伝えることができるのか?ということを、トオルさんと一緒に根詰めて考えました。
その過程で、いわゆる海外向けに、情報・企画の整理の仕方、伝わるまとめかたなどを、すごく分かりやすく教えていただいて大変勉強になりました。
―サイバーエージェントの広告作品やエントリー内容を見て、率直にどう感じましたか?
CAトオル:この広告案件のエントリーの相談を受けたときに、簡単に言えば、「欧米人の文脈に沿って応募すれば賞を取れるな」と思いました。
最初にエントリー内容を見たときは、それはもう、とても日本的で・・・。
まずは、「これこれ、こういう理由で、こういうところから始めたほうがいいよ」と、進めていきましたね。
僕が「こうやったほうがいい」と言うと、誠尚君が翌日までに用意して、それをまた直して、ということを何回かやって、という。
先述の通り、カンヌの予選は、一瞬で決まってしまうので、その一瞬をどうやって勝ち抜けばいいのか?という点をまずクリアーすることです。
純粋に見れば、僕は絶対に賞は取れると思いました。けれど、カンヌの予選を切り抜けるための方法を、誠尚君たちは知らない。なので、そのあたりを改善していきました。
簡単に言うと、海外の広告祭で勝ち抜く資料づくりでの“文脈”があります。
それは、「問題がありました」「問題をこう解決しました」「結果こうなりました」。
その三つが、海外応募資料ではコンパクトにまとまっていないといけない。
日本式の文脈だと、クライアント企業の歴史の説明から始まり、情緒に訴える感じになってしまうので外国人審査員には理解しにくい。
「WHAT IS THE POINT ?」=「なにが言いたいのですか?」と思われたらその時点でダメです。
そして、最後に大事なのことは、正確なネイティブ英語で書かないと読んでくれない、ということ。作品を見て貰えばわかってもらえる、というやり方は通じないんです。
で、結果的に、最後にはSpikesASIAも獲れたしよかったね。
CA誠尚:はい。全部で15の広告賞を受賞しました。
CA中橋:『Honda “ORIGAMI” 』は企画の初期段階からグローバル展開を見越して制作していましたが、広告賞でどのように評価されるかという事はあまり気にしていませんでした。なので、いざ賞にエントリーするぞ!となった際、企画時とは違った視点で、際立たせるポイント、捨てるポイントをビシバシとディレクション頂けたことが結果に繋がったと思います。
デジタルのクリエイティブは”数値化される効果”と向き合う性質上、”感覚的な評価”とのバランスが難しい場面もあったりするのですが、トオルさんはじめ世界中の目利きから評価されるものを出せたことは大きな自信にも繋がりました。
今後も、計測できるデータ的にも感覚的にも”良い”クリエイティブをどんどん作っていきたいです。
【連載】クリエイティブディレクター ”トオルに訊け!”
次回 Vol.3は、「”なにが面白いの?” って言われたことないでしょ!」
時代によって変わる広告クリエイターにとって大事なこと等をテーマにお伝えしていきます。
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取材・執筆: 加藤 貴子 (株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 広報)
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