2016/2/8 Mon
【特別対談】オンラインビデオ総研Directors Talk:太陽企画
泉田 岳氏
太陽企画株式会社 Director, Planner
箸尾 拓哉
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 クリエイティブテクノロジー局 シニアプランナー 兼 オンラインビデオ総研 主任研究員
酒井 英典
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 オンラインビデオソリューション局 チーフプランナー 兼 オンラインビデオ総研 所長
有賀 翔平
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 オンラインビデオソリューション局 プランナー
加藤 貴子
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 広報 兼 オンラインビデオ総研 PR
CA加藤:太陽企画さんについて改めて教えていただけますか。
細川氏:太陽企画は創業当初、テレビCMの制作プロダクションから始まりました。創業から約40年が経ち、今ではWeb動画にも踏み込んでいます。また新しい取組みとして、イベント会社のテー・オー・ダブリューさんと提携を図り、映像に強みをもつ太陽企画の両者でタッグを組むことで、プロモーションに「映像」を掛け合わせ新たな体験価値と話題拡散力を生み出す、プランニング&プロデュースユニット「T×T」(ティーティー)を立ち上げました。
今はテレビCMに限らず、映像の幅を広げようと試行錯誤をしている段階です。
僕が太陽企画に入社した9年前は、ほとんどがテレビCMの制作案件でしたが、ここ1,2年でWeb動画の案件がものすごく増えてきています。
YouTubeが今これだけ普及し誰でも気軽に動画をアップでき、Web動画の視聴が当たり前になりつつある昨今、企業のWeb動画に対する敷居が低くなってきていて、Web動画の案件の方が増えているなという実感はありますね。
CA加藤:クライアント企業と接する中で、実際のニーズはどのように変化してきていますか?
CA箸尾:ここ最近、本当にWeb動画の案件は増えており、クラアイント様はテレビCMとは違う目的をWeb動画に求めています。テレビCMではリーチが届かない層に対してターゲティング配信を行い、Web動画でリーチするという形の案件は最近増えていますね。
CA酒井:先日オンラインビデオ総研で、慶応義塾大学の熊坂賢次研究室と共に『テレビ接触頻度調査』を行いました。
テレビCMの接触が少ない層「ローテレ(=Low TVCM Reach Group)」と、テレビCMに多く接触する層「ハイテレ=(High TVCM Reach Group)」の調査を行い、「ローテレ」に分類される層が、全体の4割弱を占める結果となったんです(※)。その中には、テレビは見ているが録画視聴でテレビCMをスキップしてしまう人なども含んでいます。
テレビCMとの接触頻度が異なることで、アプローチするクリエイティブも当然変わってきます。一昔前のテレビCMで、「続きはWebで」のような形を目にする機会が多かったと思うのですが、最近はそのようなアプローチはなかなか目にしないですよね。
CA加藤:オンラインビデオ総研では、Web動画におけるあらゆる調査や、大学と共同研究を行うなど、広告主企業に参考にして頂けるデータを発信しています。『テレビ接触頻度調査』のほか、『市場規模予測』から『広告主企業へのアンケート調査』、『ユーザーのメディア接触調査』などWeb動画における調査を幅広く行っています。
調査結果をアウトプットすることによって、広告主企業やメディア企業、パートナー企業からも問い合わせをうける機会がとても増えましたよね。
CA酒井:企業のWebプロモーションのKPIって獲得目的が多いと思うのですが、Web動画の目的を聞いてみると、獲得やページへの誘導目的というのももちろんありつつ、同じくらいに、ブランディングや認知目的という声も多く聞きます。
想起を図り、購入意向を高めてもらうなどといった、クリックでは測れないような、認知周りのKPIを持っている広告主企業が増えてきています。
今までテレビCMや雑誌などに広告予算を投下していた企業の、Web動画への参入障壁がどんどん低くなってきていることが、広告主企業のアンケート調査結果にも出ています(※)。
細川氏:逆に、テレビCMの30秒や15秒という既存の尺でブランディングを語りつくせないところが、YouTubeを活用すると2分などの長尺を使えるという、Web動画広告との違いもありますよね。
CA酒井: 30秒や15秒という短尺と、長尺において、動画制作や企画の考え方を変えたりしていますか?
泉田氏:基本的な考え方としては、短尺・長尺であろうと、広告でありコミュニケーションなので変わらないのです。ですが、尺が増えた分やらなきゃいけないことがありますし、短いのであればその分削らなきゃいけないことがありますよね。ただ、長尺の方が、視聴者に飽きられずに時間を持たせなくてはならないので、そういった難しさはあります。
CA箸尾:決められたコンテンツの尺を意識して制作にあたることもあるんですか?
泉田氏:「何秒でも良いですよ」と言っていただくことが多く、尺については結構自由なんです。でもその際に、15秒や30秒の動画制作の経験をしていると、どんな尺でも対応できるのでとても楽ですね。「とりあえず必要なことはこれだ」という押さえるべきポイントを外さずに、それを、あと30秒ずつくらい前後伸ばせば良いのか、など調整しながら企画制作にあたることができます。
尺感も最近は定着してきたので、「何秒でも良いですよ」と言われつつも、60秒か1分半くらいが妥当ですね。
細川氏:御社と一緒に企画制作を行った、ジャックスさんのWeb動画は長かったですよね、4分の尺でしたから。
CA箸尾:クレジットカードのジャックスさんで、20世紀FOXさんの海外ドラマ『24』と公式タイアップをした動画広告の事例があります。
当時、プロモーション時期と、『24』の最新シリーズのDVDがローンチする時が重なり、タイミングよくタイアップを図ることに成功しました。
ジャックスさんって、テレビCMをずっとやられていますが、「テレビCMとWeb動画では違った表現をしたい」という、Web動画のお題を頂戴し、ブランディングを目的に太陽企画さんと一緒に取り組みさせてもらいました。
CA加藤:4分という長尺でありながら、本作の成功要因はどんなことろにあったのですか?
CA箸尾:本ドラマのファンから浅くドラマを知っている人まで、両者に気に入ってもらえるようこだわって企画を行いました。ジャック・バウアーのモノマネをしていたお笑い芸人のどきどきキャンプさんが、「『ジャックス』バウアー」と言ったり、『24』のクロエ役の声優を務めていた、本物の声優さん林真里花さんにも協力いただいています。
細川氏:本企画って『24』のパロディになるので、仕上がりが安っぽい映像にならないよう「ものすごく真剣にふざけようね」という話を、企画当初に泉田とも話していました。
例えば、編集のカットの仕方や画のトーンが、「本物の『24』っぽいか?」ということをとても意識しながら制作にあたりました。そして、出来上がった映像にきちんと反映できたと思います。
泉田氏:視聴者が飽きないように、長尺でありながらも、ポンポン話が進んでいった、という点が最終的に良い結果に繋がったのかなと感じています。簡単に言うと、カットを早く割るということ。
ストーリーをしっかり理解してほしいという目的の動画ではなく、「買い物」をエンターテイメントする、という『24』のコントです。
なので、僕はディレクターとして、まず最初に音コンテを作ったんです。音や言葉、会話のリズムみたいなものは、軽くならないようにしたいと考えていました。画面が四つのカットに割れたりと目で追えないくらいになってくるので、映像のテンポ、そして全体の音にはとても気を付けましたね。
CA箸尾:話題にしたくなる要素をいくつも盛り込み、SNSで拡散されるような内容をイメージして企画しました。
「ここをユーザーに反応してほしい」と当初話し合っていたポイントが、ソーシャル上で狙い通りに反応されていたり、コメントで書いてわかりやすい企画になっていたと思います。「『24』にかけて2分40秒で買い物をする」「オフィシャルコラボに『ジャック・バウアー』と『ジャックス・バウアー』」とか。コメントもほぼ100%がポジティブなもので、視聴者のリアクションを直接目にすることが出来たのも良かったですね。
CA加藤:話題になった動画というと、太陽企画さんと制作したピザハットさんの「ピザキャット!店シリーズ」もありますね。
CA有賀:世界最大のピザチェーン「ピザハット」が、期間限定で「ピザキャット!店」をグランドオープンしたというWeb動画を企画制作しました。
「ピザキャット!店」で働くスタッフの4匹の猫たちが、実際にピザが自宅に届くまでの「注文・調理・配達」の業務にチャレンジした全12本の動画を公開しました。
日々、「猫の手も借りたい」ほど忙しく毎日の食事の準備も大変な皆様のために、本当に「猫の手」を借りてみたらどうなるか?を描いた動画です。
CA加藤:海外メディアにも多数取り上げられるなど、話題になったポイントはどんなところにあったのですか?
CA有賀:既定の尺にとらわれないため、猫に演技をさせるのではなく、ありのままの猫の姿を撮影したことが、ユーザーから好印象でした。
ピザという商品の性質上、ターゲットを絞らず誰でも楽しめるような内容のものを12話という複数制作することで、ユーザーがどんどん次を見たくなるような内容設計を意識しました。
細川氏:動画の内容は、説明が不要なほど極めてシンプルに、そして強烈なインパクトが出るように工夫しましたが、そこが海外メディアに多数取り上げていただいた要因でもあるかと思います。
自発的にまとめサイトを作り始めたり、キャットのイラストを描いてWebにアップしたり、ユーザーのみなさまに愛着を持っていただけたのも、プロモ―ション内容が複雑でなく、単純で分かりやすかったことが起因していると考えています。
CA有賀:1度利用して終わりではなく、「“ずっと愛されるコンテンツ”とは?」というテーマにこだわりました。
バイラル動画という新しい手法を用いて、話題化・ブランディング、そして実際の購買に結びつける設計を行いました。
結果として、動画再生回数は公開から2週間で400万回を突破。また、世界有数のニュースメディア「TIME」や「ABC NEWS」、「ADWEEK」、「Buzz Feed」、「Washington Post」など、30カ国以上のメディアに掲載されました。
Web動画においていま注目していること
泉田氏:近年多かった「新しい表現手法を使ったビジュアル的な広告」はもうお腹いっぱいなので、素敵な脚本が元となる、ストーリーのある動画がもっと世に出てくると良いなと思っています。
CA箸尾:我々もWeb動画を企画する時に、インパクトを重視してしまい過去にないような表現や新しい技術を中心に企画を考える時がありますが、最も重要なのは商品・サービスのベネフィットが伝わり、「人が動く広告」になっているかだと思っています。
CA有賀:Web動画で「本当にブランディングはできるのか?」という点を模索しています。バイラル動画のように、一発弾けて、その後忘れてしまうような動画だけでなく、ソフトバンクの”白戸家"や、BOSSの”宇宙人ジョーンズ"のような、10年以上愛されるオンライン動画にチャレンジしたいですね。
細川氏:私がいま注目しているのは、60~90秒の短尺が多い中で、Web動画であえて長尺に挑んでいる映像です。
Web動画の兆候として「長いムービーは飽きられる」という理由から、どうしても60〜90秒の短尺に収めようとしています。
ですが、映像自体が魅力的であれば飽きられること無く、長尺でも良いのでは…?と私は考えています。あえて、今のWeb動画のトレンドに逆らい、果敢にチャレンジしている映像がどんな結果を生み出すのかとても気になります。
CA酒井:Web動画広告ですと、5-10秒くらいを「短尺」と呼ぶことが多いので、映像制作の世界だと、60〜90秒でも「短尺」と呼ぶのが新鮮ですね。
CA箸尾:弊社でも動画の長さについての効果検証をしています。尺の長い動画は必ずしも離脱率が高くなるわけではないことも分かっています。仰るとおり映像自体が魅力的であれば、ユーザーにきちんと見てもらえると思います。
一方で、短い時間で商品やサービスのメリットをコンパクトに訴求し認知してもらうことを目的に、10秒以内の短尺動画の効果検証にも取り組んでいる最中です。
CA加藤:Web動画においてチャレンジしたいことはありますか?
泉田氏:映画「トゥルーマン・ショー」のような、ドラマと広告の関わり方は面白いと思います。「トゥルーマン・ショー」は一人の男性の人生が全てドキュメンタリー番組として放送されているのですが、物語の中であからさまにスポンサーを見せるカットが入っていたりするんです。LIVE感とリアルさを兼ね備えたドキュメンタリー的な演出で動画広告をつくるとどうなるのかチャレンジしてみたいです。
細川氏:私は、「Web動画」と「リアルイベント」を掛け合わせた「映像の体験イベント」以外にも、何か表現の形は無いのか?ということを模索したいと思っています。
CA酒井:イベント会場に行って「そこでしか流れていない動画を見る」という体験が主ですが、スマートフォンを中心としたテクノロジーを駆使したりすることで、既存の概念は壊せそうですね。
弊社でも、ブランド体験を目的としたイベントを企画する案件が増えてきていますが、その場所でしか得られない映像体験を狙った企画を考えていきたいです。
太陽企画からみた「Web動画広告」の特長とは?
泉田氏:基本的には、テレビCMもWeb動画も同じ広告として変わらないと思っています。
しいてあげるなら、コミュニケーションを取る方向性の多様さがWeb動画の魅力だと思います。しかし、あくまでも「広告」であって、我々が伝えるものは商品・サービスです。その目的から離れてしまえば、どんなに面白いことをやっても響かない。そのバランスが難しいですし、今ちょっと混在されてしまっているような気がします。
CA箸尾:はい、あくまでも「広告」としての演出が効いているべきだと思っています。Web動画は、ユーザーの反応がSNS等でより分かりやすく反映されるところが特徴かと思います。ユーザーにどう反応してもらえればプロモーションとして正解か、想像しながら企画を立てる必要があると思っています。
細川氏:Web動画は、ユーザーが「自ら進んで観る」という特性をもつと考えた時に、万人ウケを狙うテレビCMと、コアな層に刺さるかを狙うWeb動画とで、企画作りの考え方が分かれます。コア層を狙った企画ならば、とことん狂うと言いますか、何事も極端に振り切ることを意識して制作にあたりたいと考えています。
CA酒井:精度の課題はありますが、Web動画なら「20代・関東圏・クルマに興味のある男性のみ配信」というように、狙った層に動画配信も可能になりますからね。
CA箸尾:そうですね。属性や興味関心など特定のセグメントへ限定配信ができるため、より細かいコミュニケーション設計が必要となってきます。男女や年齢などユーザー属性に応じて、同じ商品でもメッセージを変えて訴求しています。また、メディアによってもユーザーの視聴態度が異なるため、クリエイティブの出しわけをしていますが、これはインターネット広告のクリエイティブで培ったノウハウを活かせる部分ですね。
サイバーエージェント「オンラインビデオ総研」に今後期待すること
泉田氏:既存の企画に捉われず、広告においてこれからどうなっていくのか、どうなっていけばもっと日本でエンターテイメントが出来るようになるのか、「未来への指針」みたいなものを拝見したいです。
細川氏:ターゲットがいま何に興味を持っていて、またその興味のレベルを見分け、より詳細にセグメントすることが可能になってくるので、セグメント毎の効果的なアプローチ方法をとことん追求することが出来たら良いと思っています。
CA酒井:ターゲティングすることも大事ですが、きちんと効くプロモーション手法を見出せないと意味がありませんからね。成功も失敗も含めて、事例をしっかり蓄積していくことで、最短ルートでの最高のパフォーマンスを出せるよう、動画広告を運用していきます。
細川 修平 氏
太陽企画株式会社 Producer
1985年神奈川県出身
2006年 青山学院大学法学部卒業、その後太陽企画入社。
school所属
泉田 岳 氏
太陽企画株式会社 Director, Planner
1987年新潟県出身
2012年 多摩美術大学GD学科卒業、その後太陽企画へ入社。
TOKYO所属
箸尾 拓哉
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 クリエイティブテクノロジー局 シニアプランナー 兼 オンラインビデオ総研 主任研究員
酒井 英典
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 オンラインビデオソリューション局 チーフプランナー 兼 オンラインビデオ総研 所長
有賀 翔平
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 オンラインビデオソリューション局 プランナー
加藤 貴子
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 広報 兼 オンラインビデオ総研 PR
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