2019/4/15 Mon
【視察レポート】次世代生活研究所:中国ニューリテール最新動向 ~上海・杭州視察~
原田 曜平
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部
次世代生活研究所 所長
早川 淳二
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部
次世代生活研究所 研究員 兼
販促革命センター 販促ストプラ局
サイバーエージェント次世代生活研究所の所長 原田曜平と早川淳二が中国の最新店舗を訪れ、実際に体験した内容や、店舗と消費者双方のメリットについて、社内向けに視察報告会を実施しました。約150名の社員が参加した報告会でのレポートの一部をお伝えします。
次世代生活研究所について
原田曜平を所長とし、2018年12月に設立。次の3つの研究テーマを持って活動を行っている。
<3つの研究テーマ>
① 若者研究(ジェネレーションZ(脱ゆとり世代)を研究中)
② 次世代生活研究(キャッシュレス社会と次世代店舗を研究中)
③ ニューメディア研究(TikTokを研究中)
● 中国視察の概要
中国では日本に比べ、キャッシュレス化が進み、AlipayやWechatPayというQRコード決済が進んでいる。また、オンライン上のショッピングと実店舗の両方を展開しているニューリテール現象が起きており、その現状の視察や実際に利用する人に対して聞き込みを行うために中国を訪れた。
● 「ニューリテール」について
2016年10月にアリババ会長のジャック・マー氏が、「Eコマースはこれからなくなっていく」と発言し、「ニューリテール」という、より高効率な次世代の小売りを提唱した。以降、中国では様々な業態でテクノロジーを活用した人、物、場所の効率化を行う「ニューリテール」店舗が増えている。
アリババニューリテールの本丸 「フーマー」
● フーマーの概要
上海・杭州には、アリババグループが運営を行う「フーマー」というスーパーマーケットがあり、売上の60%以上がオンライン経由の実店舗である。
・設立:2016年1月に1店舗目が開業
・進出都市:14都市
・店舗数:64店舗(2018年7月31日時点)
・配送範囲:半径3km以内、30分
店舗の特徴
① 「売り場効率革命」
フーマーは「スーパーマーケット」として食品を売る機能だけでなく、購入した食品を食べることのできる「フードコート」としての機能や「デリバリー」の機能も担っている。また、実店舗が「オンライン注文の倉庫」と「物流センター」の役割も担っている。このように、一つの売り場で複数の市場をカバーし、かつ、複数の役割をこなすことによって、売り場効率を高めることができている。そこで抑えられた固定費を、販売促進費に回すことができたり、より付加価値の高い厨房に人員を割くことによって品質を高めたりできる。実際に、通常のスーパーに比べて、売り場面積あたりの売上高は3.7倍になっているとのこと。
いけすの中の魚にはQRコードがついており、スマホで読み込むと魚の産地などが表示される。背景には、中国内の食に対する不安があるといわれている。オンライン上での購入と違って実物を目で確認することができ、QRコードによってトレーサビリティーを高めるこの販売方法は消費者から注目されている。スーパー全体として、食の安全を押し出すような工夫があり、例えばパッケージに入荷日が大きく目がつくように表示されている。生鮮品は、その日に仕入れてその日に食べるというというモットーのもと、需要予測などの技術も活用しながら、食の安全を担保していた。
現金扱いがないセルフレジが大多数を占めており、ユーザーが専用APPで決済していた。キャッシャーの画面が大きく、見やすいのと同時に、操作しやすい(写真左)。その一方で、現金で決済するレジも1つ用意されており、高齢者や外国人など、キャッシュレス決済に必要なアプリをダウンロードしていない人向けであった(写真右)。
現金用のレジに並ぶユーザーへインタビューしたところ、アプリのダウンロードの面倒くささが原因で現金払いを行っていると述べた。また、レジの設置場所も工夫されており、セルフレジが動線に多数あるため、買い物したいと思った場所ですぐに買い物をできる形となっていた。
店舗内に、オンラインでの注文を確認する場所があり、注文を受けたらその商品を探し、外で待機する配達員にその商品の受け渡しが行われる。配送される荷物は天井にあるコンベアを通って外に向かうが、その様子がエンタメ性に優れている上、たくさんの人がその店で買い物をしているという安心感を客に与える。配達には、時間のルールがあるが、この店ではそのルールが非常に厳密に行われており、例えば30分で配達するとなったときに、9分は店内で商品をピックアップして外に運び出す時間に当てられ、21分が配達時間、というように細かい時間設定がされている。
フーマーでは、オンライン売り上げはオフライン売り上げより上回るように努力しており、フーマーは独自に抱えている配達スタッフのコストを吸収するために1日あたりのオンラインでの注文件数が定められている。
フーマーの大きな特徴として、会員向け販促の充実があった。多くの商品に会員価格が存在し、それがポップで宣伝されていて会員にならないと損をするという気持ちになる。また、商品を細かく見ていると、類似する商品の中で会員割引が行われている商品のみが売り切れているものがあって、会員割引の効果が感じられた。
専用APPを用いて決済を行うことや、大規模な会員割引を行うなど、専門APPのインストールを促すような施策が多くなされているが、この背景には実店舗だけでなくオンラインでも購入してほしいというアリババの狙いがあった。実店舗とオンライン注文の両方を行うことで、お店から半径3km圏内に住む人のオンライン・オフラインの需要をすべて奪うことができる。通常のスーパーの商圏である300mと比較すると、圧倒的に広い範囲をカバーしていることになる。
生活者にとってのメリット
ニューリテールというスタイルは、購入方法の選択肢を広げるという意味で消費者にとってもメリットがある。また、消費者は実店舗で消費した経験があると、より安心してオンラインでも注文できるというメリットもある。ニューリテールによって、例えばスーパーにいながらオンラインで購入し、配達をしてもらうなどの新しい消費の方法も定着するかもしれない。
フーマーに視察に行った感想として、購買マインドシェアについて言及。購買マインドシェアとは、消費者の心の中に占める特定のブランドの占有率のことである。オフラインでもオンラインでもフーマーで購入できるため、購買マインドシェアのほとんどがフーマーになってしまいそうだと実感した。
その他の店舗
そのほかにも、2人は中国で新しい形の決済方法や今までにない形式をもつ店舗を視察した。例えば、顔認証決済を実施している「フーマーF2」というコンビニの話や、アプリからの注文を専門としている「luckin coffee」というコーヒーチェーン、またWechatミニプログラムを利用してWechat payでの決済ができる有人コンビニ、人が退店ゲートを通るだけで決済が行われるウォークスルー決済を使用することによって無人化で運営が可能となったコンビニについて、企業と消費者の両方の視点から紹介を行った。
店舗の"デジタル化"
デジタルサイネージとは、店頭に設置したディスプレイのことで、通り過ぎる人に対してクリエイティブを表示する。中国では、店舗の天井というデットスペースを活用するなど設置場所の工夫が見られた。また、最新の無人店舗では棚の値札の下にモニターが設置され、動画及びテキスト情報を表示していた。
アリババグループの直営店舗ではすべてデジタルプライスタグを用いられていた。定価と会員価格の出しわけなどが行われていた。
フーマーやluckin coffeeのAPPについて解説を行った。具体的には、UIの共有や、クーポンの表示、利用後のSNSシェアなどが報告された。
サイバーエージェントで取り組む販促領域のデジタルシフト
報告会では最後に、サイバーエージェントにおける販売促進領域の戦略について提示し、①「プロモーションのデジタル化」、②「店舗のデジタル化」についての取り組みを紹介した。
①「プロモーションのデジタル化」では、Google,LINE,AirTrackといったプロダクトを活用した実店舗への来店促進が加速している。また、LINE Sales Promotionや小売企業とメーカー企業によるデジタル共同販促についても紹介した。
②「店舗のデジタル化」については、デジタルサイネージの保守運営から販促専用クリエイティブの制作、ビーコンの保守運営からアプリプッシュ、AIカメラによる店舗解析について紹介した。
●終わりに
次世代生活研究所では、キャッシュレス社会・次世代店舗について研究を行っており、中国のみならず、アメリカのAmazonの実店舗やD2C店舗、国内の最新店舗についても調査を行っています。 なお、調査内容についてのセミナーや講演も行っていますので、お気軽にお問い合わせください。
|本件についての問い合わせ先
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 広報担当
E-mail:honbu_pub@cyberagent.co.jp
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