幼児~高校生向け通信教育、大学・社会人向け動画学習サービスをはじめとする教育、育児、生活、シニア・介護など幅広い事業展開を行う株式会社ベネッセホールディングスは、教材や広告媒体のクリエイティブ制作の効率化を目的に、サイバーエージェントと協業でAIクリエイティブセンターを2024年に設立しました。
AIクリエイティブセンターの取り組みの中でも、AIでの実現難易度が高かった学習教材用の漫画制作について、ベネッセグループである株式会社ベネッセコーポレーションから横森様、田尾様、小出様を迎え、サイバーエージェントよりAIクリエイティブBPO事業部の責任者 簑田、松田、クリエイティブ担当の箸尾とともに対談を行いました。
話者紹介
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田尾 尚子
株式会社ベネッセコーポレーション
家庭学習・小中事業横断制作部 国語課 中学グループリーダー
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横森 綾
株式会社ベネッセコーポレーション
中学生プロダクト開発部 プロダクトマネジメント課 -
小出 紗也夏
株式会社ベネッセコーポレーション
家庭学習・小中事業横断制作部 国語課 -
箸尾 拓哉
株式会社サイバーエージェント
AIクリエイティブBPO事業部 クリエイティブディレクター -
簑田 咲
株式会社サイバーエージェント
AIクリエイティブBPO事業部 事業部長
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松田 竜太
株式会社サイバーエージェント
AIクリエイティブBPO事業部 プロジェクトマネージャー
多様化する学習ニーズに応えるために、質を担保しながら制作量を増やす事が急務
田尾氏:私はベネッセコーポレーションで主に中学生向け家庭学習教材の制作をしています。弊社では、紙やデジタルの教材からDM等のご案内冊子まで オリジナルで制作しているため、大量のクリエイティブをスピーディーに制作することが求められています。
特に最近は、お子さま一人ひとりの状況や特性に即したコンテンツ制作が求められています。弊社はタブレットでも教材を提供していますが、中には電源を入れることにハードルを感じる方もいらっしゃいますので、従来とは違うアプローチの教材を提供する必要を感じていました。
横森氏:私は中学生向けの講座の企画担当をしています。新しい教材を開発する際には、サンプル教材を作成し、それを実際に十数人の子どもたちに使ってもらいブラッシュアップしていくことが重要です。国語科の教材については、これまでの調査から「文字ばかりではなく、漫画などの形式 であれば意欲的に取り組んで もらえることが多い」という傾向が明らかになっていました。
一言で漫画と言っても、数多くの画像素材とコマ割などのストーリー構築技術が必要です。興味を惹く内容を短期で制作する難易度が高く、困っていました。
小出氏:私は教材制作を担当しており、本案件ではイラストなど素材の発注などを行いました。教材のイラストは、物語の時代設定や史実に即していなければいけません。たとえば、服装や髪型などが時代に合ってい なければ、お子さまが誤った認識を持ってしまう可能性が生じます。細部まで目配りが必要で、文字情報を漫画やイラスト化する 難しさを感じていました。
個社独自のAIカスタマイズ&体制構築が可能なBPOとして、AIクリエイティブセンターを2社共同で設立
CA簑田:私はサイバーエージェントでAIクリエイティブBPO事業部を設立し責任者を務めています。また、弊社とベネッセホールディングスさんと共同で、全社業務改革プロジェクト「AIクリエイティブセンター」を2024年12月に設立しています。両社の役員同士が意見交換をした際に、弊社のAIクリエイティブ制作に関する実績をご評価いただき、協業でAIクリエイティブセンターを立ち上げる運びとなりました。
AIクリエイティブセンターでは、推進されるベネッセ社内の「生成AIを活用した制作領域の業務改革」において最新のテクノロジーを活用するにあたり、弊社のAI活用におけるこれまでの知見を生かし、オペレーション改革の支援を目的としています。
私が率いるAIクリエイティブBPO事業部では、AIと人が協働する新しい制作体制を、クライアント企業様専用に構築するサービスを提供しています。弊社のAIツールを各企業の戦略に合わせてカスタマイズして導入するだけでなく、AI活用を前提とした専門の運用チームの組成・育成まで一貫して支援します。
結果として、限られた予算の中でもクオリティを保ちながら、大量のクリエイティブ制作を可能にすることができます。AIクリエイティブセンターでは、これまで紙DMや教材素材の制作・動画の制作まで、様々な取り組みをさせていただきました。
AIクリエイティブセンターにおける制作事例
本件では国語教材として、小説の内容を漫画形式で使用したいというご依頼をいただきました。漫画は画像・セリフ・擬音を物語に沿って適切に構成する事が求められます。難易度は高いのですが、実現できればAIのケイパビリティ向上にも繋がるテーマと考えて、お引き受けし一緒に取り組ませていただきました。
CA箸尾:私は本案件でクリエイティブディレクションを担当しています。今回オリエンを頂いた段階では、まずAIでの漫画制作が実現可能か否かという点から検証する必要がありました。与件に最適なAIツールの選定とその活用方法の検討をし、早い段階でAI活用の可否を判断いただけるよう、下書きの工程を省いて最初からデザインをご提出するなど、新しい制作フローの構築を行いました。
CA松田:私はAIクリエイティブセンターのPMOを担当しています。漫画制作のフローが確立されていなかったため、どこをAIに任せ、どこを人が担うべきかを試行錯誤しながら、最適なハイブリッド体制を手探りで作り上げていきました。
AIクリエイティブセンターとして漫画制作の知見を蓄積しつつ、より良い方法を探り続けた結果、今ではかなり洗練されたワークフローになってきています。AIツールは進化が早く、新機能が続々と出てくるので、それに合わせて制作方法も柔軟にアップデートしながら取り組んでいます。
キャラクター描写の一貫性など細かな課題を一つずつ解決し、こどもの向学心を高めるコンテンツが完成
横森氏:私が担当する中学講座では 、「学習が苦手な子でも続けられる教材を作りたい」という思いから、スマートフォンで使える新しい教材開発が始まりました。
田尾氏:国語が苦手なお子さまは、文字情報だけでは場面や 情景を思い浮かべることが難しい傾向があります。特に古典文学のような、自分にとって身近ではない世界の物語では、文章から絵を想像するハードルが更に高くなります。
そうしたお子さまでも、普段から使い慣れているスマートフォンであれば、より手軽に学習に取り組めるのではないか。考えた末に、『竹取物語』や『走れメロス』といった古典文学や近代文学をスマートフォンでも読みやすいウェブトゥーン形式*の漫画にしてみることにしました。この形式は、画像を縦横斜めで分割してストーリーを構成する“コマ割り”の必要がないため、通常の漫画より制作の負担が軽くなるのでは、と考えたのです。
CA簑田:AIクリエイティブセンターで漫画を制作するのは、今回が初めてでした。実はご依頼いただく前の技術では実現が難しかったのですが、ちょうどAIのクリエイティブ生成能力が飛躍的に向上した時期と重なり、さらにウェブトゥーンの縦読みの形式なら可能性があるのではないかと考え、「一度挑戦してみよう」ということになりました。その後、社内で試行錯誤を重ねながら『走れメロス』のラフ案を作成し、ご提案させていただいたのがスタートでした。
田尾氏:制作したのは、あらすじ漫画です。細かな場面を逐一追うのではなく 、重要な場面とポイントを押さえながらまとめているため、読了にかかる時間は1分ほど。物語の概要を短時間で理解できるよう になっています。
CA箸尾:制作の大まかな流れとしては、まずオリエン時にベネッセ様から物語のプロットをテキストで頂き、今回の漫画で強調したいシーンや主人公の感情の変化等を具体的にご指示いただきました。それをもとにAIと壁打ちをしながら漫画の各コマに落とし込んでいく作業をし、コマごとの画像を生成するフローをとりました。
*ウェブトゥーン形式…「WEB」と「CARTOON」を組み合わせた、スマートフォンに最適化された縦スクロール、フルカラーのデジタル漫画形式
使えば使うほど磨かれていく!AIをチューニングして、より量x質を追求できる体制に
CA箸尾:今回、特に難しかったのは、当時の生成AI技術ではキャラクターの描写に一貫性を保ちにくいという点でした。
田尾氏:コマが変わるとキャラクターの顔や服装が変わってしまうことが多々ありましたね。
CA箸尾:カット数も多かったので、「かなりの難題だな」というのが最初の印象でした。しかし、ベネッセ様からキャラクター設定の参考になる画像や資料をいただき、それらを元に三面図と衣装設定を明確に定義したことが解決につながりました。キャラクターの衣装まで含めた細かな設定を最初に定義して、それをプロンプトで制御して出力することで、一貫したタッチでの出力が可能になったんです。一方で、生成した画像の細かい修正がAIでは難しいところは、デザイナーがPhotoshopで修正・加工を行う形で補完しています。
デザイナーの作業風景
CA松田:三面図の活用によって一面だけの入力だと髪型や服の模様が変わってしまう課題を大きく改善できましたね。
小出氏:冒頭でもお話した時代背景や史実 に即した描写も、AI使用のハードルを上げていたように感じます。あるコマでは帯留めが現代のベルトになったり、草履が靴になってしまうなど、問題が生じるごとに細かく対応していただきました。
田尾氏:元の文章で描写されていないことやものなどを絵に起こすのがとても難しかったです。帽子はかぶっているのかいないのか、色は何色なのかなど、細かなところも悩みながらやっていきましたね。ただ、実際に絵が出てきてから気づくこともたくさん ありました。
CA松田:出てきた絵を見て、これは違うなと初めて分かることも多かったです。時代的にこれはないかなとか。このようなやりとりを経て、最終的に三面図を定義して、進めていくことができました。時代背景とリアリティを両立させるために、時代考証については細部まで気を配りました。
小出氏:戦争中の女の子はこんな髪型しないよなとか、教室の描写のところで、海外の教室が出てきてしまったりなど、色々ありましたね。
CA松田:文学作品なので、舞台となる場所も時代もバラバラで、それに合った描写を一つひとつ作っていくことは難しいポイントでした。
CA箸尾:もう一つ苦労したのは、生成AIで難しいコマ割りでした。ただ画像を生成するだけでは、中学生がテンポよく読める漫画作品にはなりません。しかし、AIでは漫画家さんの作品のように複雑なコマ割りやページ全体の構成を自動で作ることは難しい状態でした。そんな制約がある中で、テンポ良く物語の起承転結を進める方法や、登場人物の心情をダイナミックに見せる手法については試行錯誤を重ねました。
特に「感情の高まり」や「静かな余韻」といった細かなニュアンスをAIだけで表現するのは困難だったため、部分的に人の手でデザインを調整しました。セリフだけのコマをデザインしたり、AIで生成した画像を加工して場面転換の演出を工夫したりしています。
横森氏: 細かな調整を重ねていただいた事もあって、『走れメロス』を実際に中学生に読んでみてもらったところ、「文字だけだと読む気にならないけど、これだったら読める」というポジティブな声をいただくことができました。確かな手応えを感じています。
使えば使うほど磨きこめるAIを用いて、より量x質を追求できる体制に
田尾氏:今回発見したのは、登場人物が胡坐をかくイラストでありえない足の形になるなど、AIでは人のポーズの描写などが不自然になる場合があることでした。人手の場合ではこのようなことはなかったため、AIならではのチェック観点を新たに設けました。
一方で、ラフは基本的に白黒で上がってくるものですが、AIは最初からカラーで上がってくるのでイメージをつかみやすいというメリットがありました。また、スピード感については必ずしもどちらが優れているとは言えませんが、今回の案件では、漫画と挿絵を合わせて200点以上の素材を、約3〜4か月で納品していただきました。
CA簑田:弊社としても、200点もの数をお任せいただけたことは、ワークフローを組むうえで非常にポジティブに働いたと感じます。最初は三面図の作成が必要だったり、時代設定に合わないものを修正したりと時間が多少かかりました。しかし、それらを加味してワークフローを組み替えたりプロンプトエンジニアリングの精度を上げていくことで最終的な出力までのスピードを上げる事が出来ました。
また、これまでAIクリエイティブセンターでさまざまな制作プロジェクトに関わってきましたが、今回の縦読み漫画のプロジェクトは、その中でも特に先進的な取り組みだと感じています。
他の案件ですと、既存の制作物の一部をAIで置き換える、例えばイラストだけをAI化する、といった単発的な活用が中心でした。しかし、本案件ではアウトプットそのものを新しく定義し、それを量産できるワークフローをゼロから構築するという、より踏み込んだアプローチをとることができました。AIクリエイティブセンター設立当初に思い描いていた構想に、最も近い形で実現できているプロジェクトだと個人的には感じています。
小出氏:従来の学習教材では、教科書内の図版や簡単なキャラクターのイラストを入れる程度でした。しかし、AIを活用することでイラストの制作可能量が増え、さらにイラストタッチもたくさんバリエーションを用意していただき、文章のイメージに合ったものを都度選択できたことは、 大きなメリットでした。制作側としても工夫できて楽しかったですし、お子さまも新鮮な気持ちで学習してくださるのではないかと感じています。
また、人とAIが協働するワークフローのおかげで、こちらの意図がすぐ反映される点も魅力的です。たとえば「喜んでいる様子で」と伝えた際に、動物のキャラクターが尻尾を振っているイラストの案を複数出していただけるなど、細部の表現までこだわったご提案をいただいています。そのスピード感も含めて、非常にいいものを制作しやすい環境だと感じています。
CA簑田:ありがとうございます。本案件のように大量のコンテンツを制作できることは、様々なメリットがあると考えています。これまで十分な量を作れなかったコンテンツでも、ワークフローを構築することで安定して生産できます。制作側の学習曲線も上がり、作れば作るほど品質が洗練されていくのも大きな利点です。
つい最近、最初に制作した『走れメロス』を見返したのですが、「今ならもう少し上手く作れただろうな」と感じました。当時に比べてAIの学習が進んだことで、確実により良い描写が可能になってきています。
実際にAIを用いて制作された漫画『走れメロス』『夏の葬列』のワンシーン
CA簑田:今回のように新しい教材を展開するという文脈の中でAIを活用すれば、国語以外の教科においても掲載できる素材の幅が広がるのではないかと考えています。たとえば社会科の歴史を学べる動画など、今回と同じ仕組みを応用すれば多様な教材を安定的に制作し、デジタル上で豊富に提供することが可能になります。
こうした領域は、私たちが貢献できる分野だと考えているので、今後ぜひご提案していきたいです。
横森氏:中学生にとって、イラストや挿絵は大きな魅力になります。先日、別の中学校で実際に生徒に教材を触ってもらい意見を聞いたところ、理科の教材に掲載されていたカラフルな挿絵や図解のおかげで「これならできそうと感じた」と話す生徒が多くいました。現在は国語の漫画や挿絵などのご依頼ですが、今後は図解などの学習内容そのものにも、AI活用の幅を広げることができるのではないかと感じています。
田尾氏:現状では『走れメロス』の漫画は1種類のみですが、ゆくゆくはお子さまが 複数の表現から好みのものを選べるようにしたいと考えています。
AIクリエイティブセンターと一緒に取り組んでいけば、将来的に「文法に関する4コマ漫画を、野球部の子は野球を題材にしたストーリーで読める」など、個々の興味関心に寄り添った教材制作が実現できるのではないかと期待しています。
CA簑田:確かに、広告やCRMの領域ではパーソナライズされたクリエイティブをAIで大量に制作するアプローチが一般的になってきています。教材でも同じですね。子どもたちは特に興味関心が分かれていると思うので、より効果的かもしれません。
田尾氏:実際にイラストのタッチの好みについて調査してみると、性差や流行の影響もあり、結果は大きく分かれます。現在は、既存の素材の雰囲気などに合わせてこちらでタッチを決めて提供しています。しかし理想は、お子さまが「このタッチで読みたい」と思った時に、その希望に応じて選べることです。劇画調や少女漫画風、あるいは登場人物が全て猫になっているなど、好きなタッチで読み進められれば、子どもたちはより熱中して学んでくれるのではないかなと考えています。
CA松田:ベネッセ様が新たなデジタル教材を模索されている 中で、ベネッセ様の別の部署からも「こういうことはできますか?」と多くの問い合わせをいただいています。その中には、AIとの相性が良いと感じる案件が多くあり、今後もぜひ一緒に新たな取り組みを進めていきたいと考えています。同時に、紙媒体のDMなどについても、既存の制作物のクオリティにさらに近づけるため、並行して基礎となる品質向上に努めていきたいと思っています。
CA箸尾:今回の取り組みでは、AIを活用した新しい制作フローの構築ができました。AIでできないことを人が補い、最終成果物の品質を上げていくAIと人との協働作業が改めて重要だと感じました。
AIの進歩は想像以上に早く、できることも日々増えています。その変化に合わせて、私たちも新しい表現や制作フローをつくり続ける必要があります。今回のプロジェクトで得られた知見を糧に、子どもたちにより良い学習体験の向上につながるコンテンツ制作に貢献できればと思います。
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記事制作: 加藤貴子( 株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 広報 )
撮影 : 溝口晶保 〃
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