2016/12/20 Tue

出光興産105年の歴史、伝統と革新を伝える

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~ペーパークラフトで見せるヒストリームービー「The History of IDEMITSU」~

堀 智尋 氏

出光興産株式会社
広報CSR室 ブランド・広報課

中橋 敦

株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部 ブランドクリエイティブ室
デジタルクリエイティブディレクター

杉本 卓

株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部 ブランドクリエイティブ室
プランナー兼ディレクター

新美 宏樹

株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部 ブランドクリエイティブ室
アートディレクター

105年の歴史をもつ出光興産。
インターネットを主軸においたコミュニケーションの取り組みにチャレンジすべく、WEBプロモーション企画を実施し、
105年の歴史をペーパークラフトで見せるヒストリームービー「The History of IDEMITSU」と、
事業の規模や内容を視覚的に表現した「Infographic Movie」の2本のムービー制作に挑戦。

本プロモーションについて、出光興産株式会社より堀氏を迎え、当社担当者と共にインタビュー取材を行いました。

実施の背景

堀氏:今まで広告宣伝において我が社は、基本的にテレビCM、ラジオ、新聞、雑誌といった既存のマス広告を中心に展開してきました。
マス広告が、どうしても一方的な発信になりがちであることに加え、もともと出光興産はサービスステーション(SS)での露出が圧倒的に多く、ドライバーを中心とした方々に認知度の高い業態ですので、女性やお子さん、それに近年の車離れやテレビ離れから、若い人たちから出光興産のブランドや事業に関する理解・共感が得られていないのではないか?という懸念がありました。
 
そうした背景がある中で、テレビCMや新聞といった旧来のマス広告だけでなく、インターネットを主軸においたコミュニケーションの取り組みにもっとチャレンジしていこうと、今回のWEBプロモーションを企画。
 
数社でコンペいただいた結果、我々の要件を見事に表現されたサイバーエージェントさんにお願いすることになりました。

オリエンからご提案まで

CA中橋:コンペのオリエンでいただいた情報を元に、どのようなご提案をするべきか社内で話し合いましたが、なかなか答えが出ませんでした。
まずは情報収集からすべく、『海賊とよばれた男』などを読み込んでいくと、『日本の歴史』と『出光さんの歴史』がリンクしていて、「日本経済の大きな成長の裏に出光あり」と言っていいくらい、共に経済成長を遂げてきているのですよね。壮絶な歴史があって、現在に至っている。
 
当時1900年代初頭の戦前から、エネルギーを供給していく、まさに『海賊とよばれた男』と言われるような時代のあの生き様や、戦後の復興である高度経済成長を経て、そして21世紀に入り、その105年という長い期間で、脈々と出光イズムというのがありながら、日本の高度経済成長の歴史と共に歩んでいるんだ、というところを強く実感し、そしてそこにポイントを置いて提案することを制作チームと決めました。
 
簡単に手に入らないエネルギーを供給するその背景に、日本の経済成長と共に、大きなビジョンを掲げて出光興産の事業に携わってきた人たちがいたことによって、いま豊かな生活が送れているんだ、というところを、クリエイティブで表現していきたいと思いました。
 
そういう想いから、ご提案差し上げたヒストリームービーでは、『手作り感』を大事にし、また105年の歴史を、熱量の籠ったクリエイティブでいかに短い尺の中で凝縮し表現できるか、というところに起点を置きました。
 
堀氏:ご提案いただいた企画書は、いま仰っていることがそのままとても伝わる内容でした。
 
CA中橋:最終的に、105年の歴史をペーパークラフトで見せるヒストリームービー「The History of IDEMITSU」と、
事業の規模や内容を視覚的に表現した「Infographic Movie」の2本をご提案しました。

ペーパークラフトで見せるヒストリームービー「The History of IDEMITSU」

CA杉本: 出光の105年の『伝統と革新』の歩みと熱量が、映像を通して伝わるクリエイティブであるべきと考え、ベストな映像表現を制作チームと模索していきました。
たどり着いた最終的な表現は、精密な平面のペーパークラフトを奥に重ねていくことで立体的にみせ、コマ撮りでアニメーションさせることです。工程がとにかく多いこの表現手法にチャレンジすることにしました。
 
平面のペーパークラフトを奥に並べて立体的にみせるので、まず全体の動きをシミュレーションし、パーツごとのコマ撮りに必要な枚数をレーザーカッターでカットアウト、それをストップモーションのアニメーションで繋げていく作業を行っていくのですが、この手法は、1日に数秒分しか撮影ができないんです。
その数秒分には、ものすごい時間と人が携わっています。3週間ほどスタジオに缶詰めになり制作にあたっています。まさに制作スタッフ泣かせの仕事です。ですが、105年の歩みと熱量を表現するには最高の表現手法だと確信できました。
堀氏:制作現場に伺い、本当に大変だということを目のあたりにすると同時に、また皆さんも一緒にチャレンジいただけている様子が大変伝わりました。
こうやって作られているんだ!という現場を見ることは、非常に勉強になりましたし、モチベーションのアップにも繋がりましたね。
 
CA杉本:制作期間も、通常であればこの3倍ほどの期間がかかるのですが、納期が短く、そこを制作スタッフのみなさんのアイデアと情熱でギュッと凝縮することができました。本当に素晴らしい制作スタッフのチームです。
 
監督はその制作スタジオに、ずっと泊り込みでいらして。ひと夏をかけてこの仕事に注ぎ込んでくださいました。
チームの一体感もすごくあり、制作スタッフのみなさんのひと夏がこの映像にぎゅっと凝縮されています。

何回も観ていくといろんな発見があって面白いので、一回観て「フーン」と終わらずに、やっぱり何回も観ていただけるとより面白みが増すと思っています。

CA新美:この1秒に、何百枚もの紙が……(笑)。
スタジオに行くと、ものすごい束の紙がゴソッと積まれていて、紙の量はすごいことになっていましたね。
とんでもない量の紙を使っているこの1秒1秒を、どのシーンで切り取っても美しく見えるよう設計し作り込んでいます。
 
また、紙のキワには焦げをつけたり、厚い紙にして光を当てた時に立体感が出るように演出したりと、1枚1枚、1秒1秒に、細かい設計をしています。
出光さんの世界観を崩さないために、映像には色が入ってないんです。無彩色のペーパークラフトで、どう面白いことができるか?というところを突き詰めています。
音楽に関しても、何十種類もの音を重ねて作っており、拘ったところです。

CA中橋:動画を観られていかがでしたか?
 
堀氏:出来上がったペーパークラフトの動画を初めて拝見した時は、もう感動して、泣きそうになりました。隣にいた監督さんに、「泣いていいですよ」と言われたのを覚えています(笑)。
私は、この会社の理念と、それを生み出してきた会社の歴史が好きで出光で働いてきていますが、この動画は、言葉を使わずして、ダイレクトに心に訴えてくれる形に仕上がっています。「ぜひ、たくさんの方にこの動画を観ていただきたい!」と、初めてこの動画を観たときに、強くその場で感じました。


言葉を使わずして、伝える

CA中橋:いま仰っていただいた通り、『言葉を使わずして、伝える』ということは、制作チームで今回こだわったポイントです。
105年と歴史が長いものですから、伝えたいことが、もうたくさんありすぎて・・。もちろん、ポイントポイントで、ギュッと要約して、例えば説明のテキストを動画にまとめていく、といったような手法もとれたのですが、観た方の心にしっかりと感じてもらえるように、直感的に、伝統・革新のようなところも伝わるよう、言葉を使わず『ノンバーバル』で伝えていく、ということが1つ大きな拘りでした。
 
ですので、その『言葉を使わずして、伝える』というところを感じとっていただけたのは、大変嬉しいです。
 
 
CA新美:ムービー内の戦争シーンについて、どう表現するかという点についても、お客様と一緒に話し合いながら進めていきましたね。
 
堀氏:そうですね。戦争を表すことってなかなかリスクがあると思うのですが、でも、ある程度インパクトがないとこの歴史の重みが全く見えなくなってしまうので。

CA中橋:まさに戦争のシーンは、『ノンバーバルで伝えていく』ことの難しさを改めて痛感したところです。ネガティブに映らずに、かつ、戦争というものがあったんだよというのをいかに伝えるか、という点も拘ったところですね。


インナー向け効果にも寄与

堀氏:本ムービーは、インナー向けにもすごく影響力があったと思います。
アウター向けに響く素材として作っていただきましたが、出光の歴史をよく知っていてそれを心で感じるという意味では、出光で働く社員にはより響いており、副次的効果としても大きく効いています。
 
CA中橋:社内の方からはどんな反応があったのですか?
 
堀氏:社員からは、「すごくツウ向けだね」って言われて(笑)。
ムービーの中で、例えば、満州の車軸のシーンなんかは、場面が分からないと何をしているか分からないと思うのですが、『海賊とよばれた男』を読まれた方にはもう、「たまんないね!」というような(笑)。ちょっと知っていると、もう、すごく面白くなっちゃうんですよね。ですので、歴史を知っている社員の心にはがっちりと響いてしまいます。

ロゴをムービーの最後に掲載した制作秘話

堀氏:皆さんに馴染みのある、『アポロマーク』と『出光』のヒゲ文字ロゴ。このマークとロゴを、ムービーの最後に持ってきて、最後に出光のムービーだということが分かるという設計にしました。
 
CA中橋:そのオチのつけかたも、最後まで議論を交わしたところですね。
 
堀氏:当初は、ムービーの冒頭、出光商会の開業のところから社名を入れよう、という第一案があったんです。
ですが、最初にお話しいただいた通り、『出光の歴史と日本の歴史がリンクしている』というのは非常に大事な根幹で、これは出光の話ではあるけれど、そうではなく、もしかしたら同時代に始まった様々な会社が同じように多くの苦難を乗り越えて今の時代に必要な使命を果たし続けている、と思ったんです。
出光の話だけれども、日本の話であり、また、他の会社の話でもあるんだ、という思いがありましたので、敢えて、ムービーの冒頭に出光のロゴは登場させないという決断をしました。
 
CA中橋:なかなか勇気のいるご判断だったなと我々も思っています。
 
CA新美:潔さを感じますし、広告臭も消えてますよね。
 
堀氏:出来上がった動画を見て、社内でも好評だったので良かったかなと思っています。

今後のプロモーション展開

堀氏:制作して頂いた動画は、当社のWebサイトとYouTubeの公式チャンネルで展開していますが、その動画自体のプロモーションはこれからになります。この動画が一番映えるプロモーション展開を考えています。
 
CA中橋:プロモーションをかける来たるべきタイミングに向けて、Web上で拡散しやすいような制作上の設計にしています。
どこを切り取っても美しく見えるというペーパークラフトの視点はもちろんのこと、スマホで観る機会が増えてくると思うので、音声なしのビジュアルとしても興味を持ってもらえるような作りだったり。
Web上で拡散が自走することを見越して、トレンドも押さえつつ、かつ、今までにない新しい制作方法や視点を盛り込んで作っています。
 
CA杉本:『ノンバーバル』なクリエイティブで、国内外関わらず、誰にでも伝わるように作っていますので、まさにデジタルのコミュニケーションの中で、なるべく広く、多くの人に知ってもらえるようにも設計しています。
日本国内向けのコミュニケーションもそうですが、世界に向けたコミュニケーションとしても活用できるよう、出光という会社を知っていただく上でとても有効なものになっているのではないかと思っております。
 
堀氏:そうですね。海外の一般の方々にも、また弊社のナショナルスタッフ(海外の現地法人に勤務する外国人社員)にももっと観てもらえるような形を考えたいと思っています。
基本的に、出光の歴史が好きな人が社内には多いので、心を熱くすることは間違いないと思います。
 
ここだけの話、私、この動画を映画のプロモーション関係者に紹介したんですよ。「観て、鳥肌立ちました。『海賊とよばれた男』の映画の宣伝に使いたいくらいです。」と仰ってました。映画の世界観に通じるので、それに関わった人にしてみれば感激もひとしおだと思います。

サイバーエージェントに任せた理由

堀氏:頂いたご提案が、出光興産のことを非常に研究をしてこられて、私たちが大変共感できる企画内容でした。
そして、ペーパークラフトやインフォグラフィックといった手法が、今までにない新しいものだったので、ぜひこの手法に挑戦し、届けたい層に訴えたいと私たちが思い、今回お付き合いをさせていただいています。
 
いざ、一緒にお仕事を進めていくと、分からないことに関しても懇切丁寧に教えていただきましたし、また何より、みなさんの雰囲気が非常に明るくて。この仕事を大変ながらもとても楽しんでいらっしゃっていて、これを、自分のチャレンジにもされているということも、仕事の枠を超えて非常に伝わってくるほど、とても雰囲気が前向きでした。それは、すごく心強く、そしてとても楽しかったです。
そんなみなさんの姿勢が、新しいアイディアをいろいろと生んで、我々に寄り添った形でご提案をしていただけていました。私もその姿勢に非常に共感をして見習いたいなと思いました。
CA杉本:そういう気概は、堀さんが持っていらしたおかげだと思います。
通常の制作期間を三分の一に凝縮したスケジュールにも関わらず、制作スタッフがもの凄いやる気の状態のまま最後までやりきれたというのは、堀さんがそういう風に思っていただいた空気感が制作スタッフにも全部伝わっていたからだと、改めてお話しを聞いて思いました。

今後の展望

堀氏:冒頭に申し上げたとおり、インターネットをメディアの主軸においた最初の試みで、今回、非常に良いものを作って頂き大変嬉しいです。今後は、このムービーをスタート台にし、さまざまな手法・テーマにトライしていきたいと思っています。
 
今回、『伝統と革新』というメッセージのなかで、ペーパークラフトやインフォグラフィックという手法を用いて、こだわりの沢山詰まったムービーを作ってくださいました。
我々出光興産って社名も漢字ばかりで、消費者の皆さんへの調査でも、『堅い』イメージを持たれているという結果が出ています。今までのコミュニケーションの世界観も、そのイメージを踏襲してきたきらいがあります。これからは、そういった従来のイメージから抜けて、「あれ?出光がちょっと面白いことをやってる」「これ出光なの?」って思われるような、良い意味で予想を裏切る、新鮮な驚きを与えられるような動画をいくつか作ってみたいと思っています。
 
動画だけに留まらず、他にも様々な表現にも挑戦し、トライアンドエラーでいくつもやってみて、一体どういうものが我々の姿を伝えるのに合った形なのか、どういうものなら皆さんの話題に上るのか、ということにチャレンジしていきたいと考えています。
CA中橋:今日のお話を経て、新しくチャレンジしていこうというタイミングでご一緒できたというのはすごく嬉しいです。
 
我々もクリエイティブにおいて、まだまだチャレンジをしていかなくてはいけないですし、できると思っているのですが、そのタイミングでお仕事をご一緒できたということがすごく嬉しいなと思っています。
出光さんのような長い歴史のある企業さんと、我々のようなインターネットを基軸にした若い会社が、一緒に化学反応を起こしていきながら、よりよいコミュニケーションの形を共に作っていけたらと思っています。
 
今回のこの動画に関しては、僕らの会社としての『創る』という力と、そして作った制作物をデジタルの世界で『広げていく』という力、その両方が組み合わさり、お客様のプロモーション効果の最大化を実現するのが僕らサイバーエージェントの強みなので、今後はそういったところのチャレンジですね。
 
この動画もそうですし、先ほど堀様が仰ったような、今後に向けての新しい形での出光ブランドを伝えていくにあたり、そのコミュニケーションのパートナーとしてご一緒させていただけたら非常に嬉しいなと感じております。

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取材・執筆: 加藤 貴子  (株式会社サイバーエージェント 全社広報室 インターネット広告事業本部  広報)


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