2015/6/12 Fri
「広告」から「個告」の時代へ:2
藤本 健治
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 クリエイティブソリューション局 シニアクリエイティブプランナー
2008年サイバーエージェントへ入社。西日本事業部にて通信販売や不動産事業のクリエイティブディレクションに従事。2011年より、広告事業本部にて、通信・人材・金融・通販など、他業種に渡るクリエイティブプランニングを担当する。
第2回:【基礎篇】ユーザーにマッチするクリエイティブ
前回記事、
『「広告」から「個告」の時代へ』 では、「個告」時代のプランニングとクリエイティブの可能性について、その概要をクリエイティブプランナーの藤本と日好の2名にインタビュー形式でご紹介いたしました。
今回は『【基礎篇】ユーザーにマッチするクリエイティブ』というテーマで、クリエイティブプランニングにおけるユーザー分析の重要性とその具体的な展開事例について、藤本よりお伝えします。
ユーザー属性や行動を考慮したクリエイティブプランニング
みなさんこんにちは、藤本です。
さて、インターネット広告において、「個告」という言葉が重要視されていますが、その背景には、個々のユーザーに対してアプローチできる、インターネット広告の多彩な配信テクノロジーの発達があります。
インターネット広告では、年齢や性別はもちろん、趣味・嗜好や住まい・職業・使用しているデバイス・行動情報など、あらゆるセグメントに対する細やかな配信を可能にするテクニカルなアプローチが数多く存在します。
そのような優れたテクノロジーを活用できるインターネット広告のクリエイティブプランニングにおいて、まずなによりも重要なのが、徹底した「ユーザー分析」です。今回のコラムでは、”クリエイティブプランニングにおけるユーザー分析のあり方”についてお伝えしてまいります。
ユーザーセグメンテーションと、そのニーズやインサイトの発掘
ユーザー分析を行うプロセスは、大きく2つのステップで展開します。
①狙うべきターゲットのセグメント設計
②そのセグメントユーザーのニーズやインサイトの把握・発見
インターネット広告のセグメント設計は、マスマーケティングのような「最大公約数」のセグメントを選択し、それ以外を切り捨てるというリーチ重視の発想とは異なります。
インターネットの場合、その商品やサービスにマッチするターゲットをいくつかのセグメントに分類していき、最終的には個人に近い最小単位まで落とし込み、それぞれに最適なアプローチを行うことを目指します。すなわち、“One To One”のマーケティング発想です。
そのセグメント設計は、年齢や性別、居住地、趣味・嗜好などの「属性」だけでなく、広告を何度見て、どんなページを何秒見て、どこで離脱したかという「行動」や、どんな商品を買ったかなどの「購買」など、あらゆる切り口で細かく設計することができます。
ネット広告を扱うクリエイティブプランナーは、それらのセグメントの切り口において最も効果的なセグメントに分類し、それぞれにそのニーズやインサイトを明確にしながらクリエイティブへと落とし込んでいくスキルが必要です。単に表現面を企画・制作する「表現者」としてだけでなく、戦略的にユーザーをセグメントし、その配信技術を掛け合わせながら最適なコミュニケーションを描く「設計者」としての側面を併せ持つ必要があるということです。
例えば、人材サービスのプロモーションを展開する際、性別やエリア、年齢等でセグメントすることは一般的ですが、ここにさらに「子どもの有無」という新たなセグメントを追加することで、より細やかなニーズやインサイトを発見することができます。「子どもを持つユーザーには高い給与を訴求するより、時短勤務や家に近い勤務地など、働き方に関する訴求の方が効果的」といった捉え方ができるようになるからです。
そのようにして、配信テクノロジーを考慮しながら細やかなユーザーセグメントを設計し、そのユーザーのニーズやインサイトを洞察していくことが、インターネットのクリエイティブプランニングには求められるのです。
ユーザーセグメントに合わせた様々な配信コミュニケーション
先ほども記したように、インターネット広告は非常に細分化されたコミュニケーションが展開できますが、その中でも特徴的な手法が、ユーザー行動(サイト閲覧履歴・検索履歴等)に合わせて広告をマッチングさせる手法です。
例えば、コンバージョンユーザーに近しい行動履歴を持つユーザーにアプローチする「シミラーターゲティング」や、商品やサービス名を検索したユーザー(関心度が高い)に対して配信する「サーチリターゲティング」などがあります。これらの手法は、広告効果を大きく向上させました。
金融業界の場合、「カードローンの情報を検索している顕在的なユーザー」に対してアプローチするにはとても有効です。さらに、そのユーザー層に対して深くアプローチするには、曜日・時間帯のターゲティングを行うということも可能です。急な出費が必要になる週末の18時頃に、「本日の20時まで借入可能」というコピーでアプローチすることで、ユーザーの心理を大きく動かすことができるのです。
このように、様々な配信テクノロジーを理解しておくことで、さらに効果的な打ち手を発想することができるため、表現面についてのアイデアだけでなく、配信テクノロジーやそれを活用したコミュニケーション自体のアイデアにも感性を尖らせておく必要があるのです。
ユーザー属性に合わせたクリエイティブ表現の開発
ユーザーセグメントの発想は、もちろんクリエイティブの表現そのものにも大きく影響します。
例えば、属性や年齢によって好まれるフォントやカラーリングが違うことが、分析によって明らかになってきています。
また、デザインのトレンドにおいても、ユーザーのセグメントごとに適正に捉える必要があります。
例えば、スキュアモーフィックデザインからフラットデザインへとWebデザインのトレンドが移り変わっていますが、これはユーザーのネットリテラシーについてのセグメントとそのデザインの最適化として捉えることができると考えています。
数多くの実績の考察から、ネットリテラシーが高く頻繁に広告に接触しているユーザーには、過度にデザインされたバナーやランディングページよりも、シンプルでわかりやすいデザインが好まれる、ということがわかってきています。流行だからといって一様にフラットデザインを採用すればよい、というものではないことが、このような分析によって明らかになってきます。
データの活用で実現するさらなるユーザー細分化の時代へ
最近では、DMP等のデータの活用によって更に的確な細分化アプローチが実現できるようになってきました。
例えば、健康食品業界の場合、既存顧客(=会員)とのコミュニケーションを積極的に行うCRMが実施されていますが、その会員データを広告配信に活用することで更に個別的なアプローチが可能になってきています。
そう遠くない未来に、「先ほど○○を購入された○○様にお知らせです」という極めてパーソナルな広告=「個告」が配信されるような世界観があるかもしれません。
とはいえ、ユーザーセグメントをひたすら細分化し続ければいいという訳ではありません。企業の状態や配信する広告の予算、目的や課題に対して、どのセグメントで実施すれば効果を最大化させることができるかの見極めをすることが最も重要です。
その意味においても、クリエイティブプランナーの存在は非常に重要な役割を持つと考えています。
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