
「広告」から「個告」の時代へ 〜ダイレクトマーケティングにおけるクリエイティブプランニングの重要性〜

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 クリエイティブソリューション局 シニアクリエイティブプランナー
藤本 健治
2008年サイバーエージェントへ入社。西日本事業部にて通信販売や不動産事業のクリエイティブディレクションに従事。 2011年より、広告事業本部にて、通信・人材・金融・通販など、他業種に渡るクリエイティブプランニングを担当する。

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 西日本事業部 クリエイティブソリューション局 シニアプランナー
日好 康人
2003年サイバーエージェントへ入社。ディレクター兼プロデューサーとして、コーポレートやECのサイト構築に携わり、2005年に広告クリエイティブの専門組織立ち上げメンバーとして参画。以後、ダイレクトマーケティング領域におけるクリエイティブのプランニング・制作に従事。
配信メディアの進化やソーシャルネットワーク等の新しいプロダクトの登場により、ダイレクトマーケティングはより個々のユーザーに向けたアプローチが重要になってきました。
その中でも、クリエイティブの立ち位置も変化し、緻密な個別最適と大胆なアイデア・クリエイションの両立が必要になっています。変わりゆくインターネット広告の世界において、クリエイティブプランニングが成すべきこととは何なのか。
数々のダイレクトマーケティングのプランニングを手がけてきた当社社員の藤本と日好が、本コラムを通じてその問いにお答えしていきます。
本コラムは、全12回の連載記事でお届けしてまいります。
第1回目の今回は、“ダイレクトマーケティングにおけるクリエイティブプランニングの重要性”を、インタビュー形式でお伝えしていきます。
次回以降は、基礎的なプランニング手法から、業種ごとの応用的なメソッドなど、幅広い内容を、本人たちのコラム執筆にてお送りします。
「個告」時代のクリエイティブプランニング
「個告」という言葉が大きく取り上げられるようになりましたが、クリエイティブの世界でも何か変わったという実感はありますか?
藤本:プランニングの方法は大きく変わったと思います。配信手法の高度化でプランニングも複雑になりましたが、以下の4フェーズは変わらない基本のプランニングフレームです。

藤本:中でも特に重要になっているのが、③と④の部分だと感じます。ユーザーにアプローチするための最適なコミュニケーションを綿密に設計する部分と、最も効果を最大化するための大胆な表現やアイデアの創造の部分ですね。
日好:サービスや商品の課題分析、インサイトの抽出も大きく変わりましたね。
単品通販業界では、ユーザーの広告接触頻度や参入業者の増加によって、例えば「この化粧品はAという成分によってお肌に効果的だ」というストレートな訴求が通用しづらくなっています。
単純にストロングポイントを訴求するのではなく、その商品やサービスが持ち合わせている競合優位性や、インサイトをさらに深掘りした上での訴求設計が求められています。
藤本:コミュニケーションの設計も多様になり、実現できることが広がりました。通信業や保険など情報が多岐に渡る業界の場合、「ユーザーにサービス内容が理解されづらい」という課題があります。
そのような場合、ターゲットの関与度ごとにコミュニケーションを設計し、初心者には、エデュケーション用クリエイティブを展開して商品への興味や認知を高め、リテラシーが高いユーザーには、サービスのメリットやストロングポイントをフックとしたクリエイティブを展開したりします。いわゆる、シナリオ配信に近い発想ですよね。
これもただ広く認知させるという発想ではない、最適なターゲットの最適なタイミングに効果的にアプローチするという「個告」という文脈から生まれたクリエイティブ展開といえますね。
日好:クリエイティブもひとつひとつのバナーやランディングページにおいて、新しい表現やアイデアが必要で、配信するタイミングや外部環境に応じて、大胆で最適な打ち手を発見するスキルが求められています。実際に「SOL(※)」というランディングページのメソッドや、動的なバナー表現などの新しいアイデアが獲得効率に大きく影響を与えました。このような表現・アイデアを生み出す人材の育成や体制づくりも必要ですね。
※SOL:当社独自のランディングページ最適化ロジック
【参考】
「曲がり角を迎えたアドクリエーター:1」
藤本:先にもお話しましたが、特に重要なのは、「コミュニケーションの設計」や「表現・アイデア」ですね。ここがクリエイティブプランナーの腕の見せ所だと思っています。
配信ロジックの進化とコミュニケーションの設計
なぜクリエイティブにおいてコミュニケーション設計が重要になったのですか?
藤本:配信ロジックが進化したことが最も大きい変化ですね。
年齢や性別といったユーザー属性や配信面はもちろん、デバイスや趣味嗜好、行動履歴などでもターゲティングが可能になったため、それらのデータをうまく活用したコミュニケーションの設計が可能になりました。
また、サーチターゲティングやサイトリターゲティングなど、ターゲティング手法も大きく変わり、様々なデータやアドテクノロジーを掛け合わせることで、これまで以上に緻密にユーザーへマッチさせるクリエイティブも展開できるようになりました。
日好:「コミュニケーションの表現幅」も広がったといえますね。例えば、曜日や時間を指定したクリエイティブなども配信できるようになりました。
商品やサービスが必要とされる時間帯、ゲーム業界で言うと「寝る前にゲームをしませんか」等の直接的なコピーを打ち出すことも可能です。
それらの設計自体も、我々クリエイティブプランナーにとっての表現のひとつになっていると思います。
藤本:配信できるメディアやプロダクトもまだまだ増えています。ソーシャルメディアやネイティブ広告など、プロダクトの広がりに伴い、コミュニケーションのカタチも新しくなってきています。
一時期のダイレクトマーケティングでは、ユーザーに興味を持たせるプッシュ型アプローチが多く見受けられましたが、ソーシャルメディアの広告では広告色を抑えユーザーに「共感」を与えるコミュニケーションが重要です。
日好:「AIR TRACK(※)」のようなテクノロジーも駆使することで、新たなコミュニケーション設計が可能になりましたね。
※AIR TRACK:店舗における来店計測や特定のエリアに訪れたユーザーに対してターゲティング広告を配信できる商品
【参考】
プレスリリース「アドテクスタジオ、実店舗への来店状況に応じた広告配信の最適化を実現する「AIR TRACK」の提供を開始」
まさに、「広告」から「個告」への移り変わったということでしょうか?
藤本:そうですね。ダイレクトマーケティングの分野では特に、「個告」という文脈は広がっていると思います。
ただ、動画広告やリッチ広告でユーザーリーチを広げることで適切に購買意欲を高めるなどして、その後にリターゲティングでコンバージョンに導くという立体的な展開も有効です。「広告」と「個告」、両方の効果や目的を知ったうえで、効果的にコミュニケーションを設計することが重要ですね。
データ×クリエイティブとは
藤本:これまで以上に、データとクリエイティブの関係性が強まってきたと感じます。
日好:そうですね。得られるユーザーデータの精度が高まったことで、より精度の高い表現面でのメソッドも生まれつつあります。例えば、ランディングページの開発において、10代、20代、30代、40代の年代ごとに刺さるデザインやコンテンツがどう違うのか、ということもわかるようになってきました。
藤本:デザインの作り方はユーザーの年代や関与度、趣味などによって大きく異なりますね。高齢層には視認性を上げたクリエイティブ、ネットリテラシーが高いユーザーにはトレンドであるフラットデザインを採用すると効果がでるなど、業種や業界によっても異なりますが、より細かなアプローチが可能になっています。
日好:バナーを1つ作るのにも、データの活用が格段に増えました。コピーやビジュアルの選定において、これまでの検証データや競合のクリエイティブ調査は必要不可欠ですし、実施前にモニターテストなどを実施するケースもあります。また、運用においても、統計学を用いてバナーを差し替えるタイミングや頻度を明確にしたり、外部データの分析によって今このタイミングで打ち出すべき表現を即時に判定して差し替えるなどの対応も可能になってきました。
藤本:ユーザーのサービスに対する理解度や興味深度、商品の購入回数など、あらゆる属性に対して、どのクリエイティブが効果的なのか、ということをデータを用いて仮説・検証することが多くなりましたね。
日好:データが増えたことで、検証スピードも一層早くなり効果に向きあうクリエイティブの運用体制の構築がとても重要になってきていると感じています。細かい検証から導き出すことと、新たな表現方法を導き出すことが、日々同時に求められますので、それを実行するためのマネジメントの発想は、クリエーターにとってもなくてはならないものになっていますね。
さらに表現面のクオリティもどんどん高いレベルのものが求められるようになってきています。そういう意味でもクリエイティブの体制がとても重要だと思います。

今後のインターネット広告におけるクリエイティブプランナーの位置付けとは?
藤本:インターネット広告においてクリエイティブは、広告効果を左右する大切な要素です。
ですので、常に新しい打ち手を発想するアイデアやメソッドの蓄積、素早くクオリティの高いものを生み出す運用体制の構築など、それら全てが、クリエイティブプランニングの仕事だと思っています。
日好:ダイレクトマーケティングでは、広告効果が最も重要視されます。効果に徹底的に向き合い、最も有効な手法を導き出すことがプランナーには求められていると思います。
藤本:インターネット広告の世界において、クリエイティブは益々重要になっていきます。
コミュニケーションの設計からクリエイティブ本来の表現やアイデアの創出まで、プランナーが求められる要素は格段に多くなるでしょう。
この連載では、我々が考える「クリエイティブプランニングとは何か?」ということについて、本コラムを通じてお伝えしていければと思っています。
日好:インターネット広告に参入される業種の幅も広がりつつある中で、我々は単品通販業界や金融業界、ゲーム業界や人材業界、不動産業界など、様々な業界に適したクリエイティブメソッドを抱えています。そのような業界毎におけるクリエイティブ手法や、応用的なメソッドなどについてもお伝えできればと考えています。