

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部
クリエイティブソリューション局
マネージャー兼クリエイティブディレクター
宮本 篤史
芸大・美大受験生向け予備校で講師として2年間、技術指導を行う。 その後7年間、住宅・インテリア業界で、住宅設計・施工の監修/インテリアコーディネート/造作家具のデザイン・設計/広報企画・制作に携わる傍らグループ会社のホテル事業や食品事業に参入するプロジェクトにも参画。 サイバーエージェント入社後、主にWeb広告やCRM関連のクリエイティブ企画・制作・商品化に取り組む一方で、専門学校や大学などでセミナーに登壇。クリエイターの人材発掘、育成にも力を入れている。
みなさん、こんにちは。前回の記事、曲がり角を迎えたアドクリエーター:1に続き、第2回目の今回は、商品・サービスの“優位性”を示す情報について、もう少し詳しい紹介と、これからのアドクリエイターに求められる目線についてお話したいと思います。
当たり前のことですが、私たちの手元に、クライアント(広告主・販売主)の商品・サービス情報だけがあっても、優位性となり得る情報を抽出することはできません。
商品・サービス情報の優位性を明確に定めるためには、少なくとも以下2点の準備が必要です。
【A】マーケットデータ…
該当商品・サービスのユーザー動向と広告主(販売主)および競合企業の商品・サービス情報。
【B】メディアデータ…
配信メディアユーザーの特性がわかる情報。

アドクリエイティブをプランニングするうえで、上記2ヵ所の交わるところから、“ターゲットの特性”と“ニーズ”を特定する必要がありますが、私たちは、【A】マーケットデータを整理するためのひとつの手段として“CC Sheet”というツールを活用することがあります。
※CC Sheet:競合比較シート(Competitive Comparison Sheet)の略称。
提案を行うアドクリエイティブの配信メディアや該当ジャンルの商品・サービスが、よく購入されている経路で、露出の多い他社の商品・サービスをピックアップしてこのCC Sheetを作成していくのですが、さらに私たちは、ここで選定した競合と広告主(販売主)の商品・サービス情報を4段階(4th Material)に分類します。
▼4th Material
・0th Material…
商品・サービスの背景にある企業またはブランドコンセプトや実績、歴史などの情報。
・1st Material…
商品・サービスそのものに関する情報。名前、仕様、機能(ポジティブ利用動機)、購入条件など。
・2nd Material…
商品・サービスの販売、PR活動より派生した情報。販売実績、UV、ランキング、メディア掲載実績など。
・3rd Material…
同類の商品・サービスすべての利用動機になる背景情報。世間一般で知られる問題や定評のある成分、しくみやネガティブ動機、シーズナル情報なども含む。
こうして抽出した商品・サービス関連情報と市場動向を合わせた【A】と、配信メディアの特性【B】を突き合わせることにより浮かび上がる、ターゲット特性(デモグラ・サイコグラフィック情報そこから想定される行動や商品・サービスへのニーズ)を元に、以下の3つの情報を導き出します。
【1】重要優性情報…
いわゆる“強み”。広告主(販売主)の商品・サービスには含まれるが、競合の商品・サービスに含まれない配信メディアユーザーにとってのメリット情報。
【2】重要基本情報…
該当する商品・サービスを選ばせるうえで最低限提示しなければならない配信メディアのユーザーニーズを満たす情報。
【3】重要劣性情報…
いわゆる“弱み”。競合の商品・サービスに含まれるが、広告主(販売主)の商品・サービスには含まれない配信メディアユーザーとってのメリット情報

ターゲットに広告対象の商品・サービスを選ばせるためには、重要優性情報≒“この商品・サービスでしか実現できないポイント”を見つけ出すことが非常に重要です。
そこで、上記【1】【2】【3】の情報を抽出し、効果的なアドクリエイティブをつくるため、私たちにできることは大きく以下の2点です。
【A】メディアプラン…
マーケットニーズと配信対象ユーザーニーズの共有範囲を広げるプラン。
【B】クリエイティブプラン…
競合に対して広告主(販売主)の商品・サービスが持つ重要優性情報を最大化する情報設計プラン。

そして、これら“重要優性情報”“重要基本情報”“重要劣性情報”を抽出する際、特に活用できるソースが、先で紹介した4th Materialの中でもユーザーの損益に対し、直接的に影響する“1st Material”(※)であると考えています。
※1st Material…
商品・サービスそのものに関する情報。名前、仕様、機能(ポジティブ利用動機)、購入条件など。
もちろん、広告主(販売主)の商品・サービスから、理想通りの優性情報を抽出することが難しいケースもあります。
そういった場合の対策として、例えば、単体の商品・サービス特性 、つまり“点”で戦うことが難しければ、“点”を集めて魅力的かつオリジナリティのある“面”をつくり、提案する方法があります。また、商品・サービスの前後に控える企業やブランド情報“0th Material”(※)、販売実績や第三者評価などの“2nd Material”(※)から魅力を引き出していくほかないでしょう。
※0th Material…
商品・サービスの背景にある企業またはブランドコンセプトや実績、歴史などの情報。
※2nd Material…
商品・サービスの販売、PR活動より派生した情報。販売実績、UV、ランキング、メディア掲載実績など。
なお、状況によっては、既存の商品・サービスの仕様で、競争に勝てる可能性があり、かつ新しいターゲットへのリーチが可能なメディアにリプレイスすることも視野に入れておく必要があります。(その場合は、潜在顧客に有効な“3rd Material”(※)から活用する機会も考えられます)
※3rd Material…
同類の商品・サービスすべての利用動機になる背景情報。世間一般で知られる問題や定評のある成分、しくみやネガティブ動機、シーズナル情報なども含む。

このようなことを考えながら、私たちは、広告主(販売主)の商品・サービスの優位性を形づくっていくのですが、これらの内容について、例えば、「プランナーやコピーライター、ディレクターから仕事を渡されるデザイナーは理解しなくてもよい。」という話ではありません。
私たちが“Element(成分)”と呼ぶ、クリエイティブの構成要素“色”や“形”なども多かれ少なかれ、メモリのあるれっきとした情報の器です。

これらをどのように活用すれば広告の効果が上がるのか?
WEBマーケティングでは、たとえデザイナーであっても広告主(販売主)であるクライアントの事業KGI・KPIと向き合う姿勢が必要であることはもちろん、クリエイティブの中に潜む見えないKPIを探り当て、適正な優先順位と力加減で、狙ったレバーを動かさなければ、効果改善は実現できないのです。
従来のマス広告などでは、可視化することが難しかったクリエイティブの価値を追求できることは、私たちクリエイターとしての“優位性”を、いち早く勝ち取るチャンスではないかと思っています。
以前から業界で耳にする“データドリブンマーケティング”という言葉は、正直、独り歩きしているようにも思えます。果たして、膨大なオーディエンスデータの細分化が進む一方で、言語をはじめ、色や形などといった様々な要素が構成するメッセージデータ(クリエイティブ)の細分化は進んでいるのでしょうか。
先でご紹介した通り、言語ひとつをとっても、ターゲットに対する性質を加味した判断を怠れば、私たちの狙いは達成できません。
これらの情報を整理していくのは、私たちアドクリエイターをはじめ、広告業界に関わるプレイヤー一人一人の役割であり、そこで発見される原理原則が、今後のオートメーション化のカギになると考えています。
オートメーション化が進めば、クリエイターのステージはさらに上がり、個々の跳躍で手の届く領域や、クリエイター同士が競い合うフィールドは、これまでにない高みに達することが期待できるでしょう。
『クリエイターの曲がり角』は、見えてきたでしょうか。
では、また次号にて。
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