2016/3/23 Wed

クリエイターズリレーコラム(1)レスポンス広告に「美しさ」は必要か?

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宮本 篤史

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部
クリエイティブソリューション局 マネージャー 兼
クリエイティブディレクター

渡辺 周平

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部
クリエイティブソリューション局 シニアプランナー 兼
クリエイティブディレクター

レスポンス広告に「美しさ」は必要か?

渡辺: 現在世の中に配信されているネット広告のクリエイティブは、他媒体の広告に比べ、見た目の表現に疑問を感じるものもあると感じています。今回のコラムのテーマは、「レスポンス広告に美しさは必要なのか」ということについて議論していきたいと思います。
私はレスポンス広告であっても、まずビジュアルの美しさは必要だと思っています。効果さえ出ればよいという考えによってアウトプットビジュアルの完成度がおざなりになっていたり、過度に下品な表現のものが配信されるケースも見受けられます。多くの人が醜いと感じる広告は、その商品やサービスの印象が悪くなる可能性もありますし、広告はただでさえ嫌われやすいのに、見た目やコンセプトの悪いものをつくるのは良くないと思っています。
ただ、広告における“美しさ“は、単にビジュアルだけの話ではないので奥が深そうです。

宮本:私も渡辺さんと同じく、広告に“美しさ”は必要で、「美しいに越したことはない」と感じています。
また、広告の対象になる商材がユーザーの“どんな欲求”に応えるものなのか?それもクリエイティブの“美しさ”と関係があるのではないかと考えています。
人の欲求にも種類があって、その違いで“美しさ”を付与する情報の形式が変わるのではないかと思います。“形式”とは、例えば“テキスト”や“ピクチャー”、また、両者で構成されている“図解”などといったものです。
例えば、“生命維持に関わる欲求”によって購買行動を起こす“高額な医薬品”の場合。
デコラティブな要素と比べて、どんな成分による効能・副作用があり、どのくらいの価格で手に入るのかといった絵だけで伝えることが難しい情報の優先度が高まります。そうなると“文字”で表現するケースが多くなりやすいので“美しさ”を施す対象が“文章”や “図解”を中心に考えたデザインやレイアウトになりやすいと考えられます。

「“美しさ”を付与する情報=テキストや図解>ピクチャー」

それに対して、“精神的欲求”を満たす“無課金でも利用できるアプリゲーム”の場合。
無料で楽しめることもあり、比較的検討スパンが短い“低関与商材”でもあり、テキストよりも直感的なインパクトがあり、商材情報も兼ねたプレイ画面やキャラクターといったグラフィックが中心になりやすい。

「“美しさ”を付与する情報=テキスト<ピクチャー」

このようにユーザーの欲求や商材の種類、関与度によって“美しさ”の表現が異なるのではないかと思っているのですが、他にも年齢や性別といったユーザーのデモグラフィック、商材の稀少性などの影響もありそうです。

渡辺:このように細かく美しさを定義していくことは大切ですね。宮本さんは、徹底した分類や定義に基づいて科学的にアプローチしているのに対して、私はもうすこし感覚的なアプローチもしたいと考えています。もちろんしっかりした仮説を持った上ですが、ジャンプした発想のアウトプットも追求していきたいですね。

宮本:私も未経験の物事に対して取り組む場合は、最初から細かい粒度で理論的に考えるというよりも、エモーショナルな判断でのアウトプットを大切にしています。そういった直感的な判断と理論的な判断を交互に何度も繰り返しながらひとつのクリエイティブをブラッシュアップしていくイメージです。
なので、最終ゴールを意識している渡辺さんの考え方にも共感できます!

”美しさ”とは何か?

渡辺:クリエイティブに対し、理論的な判断を細かく徹底しながらもビジュアルの質を担保し効果を高めていくのには、秘訣があると思います。チーム内で意思疎通をすることは、後に考え方を汎用化させることにも役立ちそうですね。

宮本:華やかさの無い進め方なので、キライな人も多いと思いますね。(笑) そもそもの話になりますが、真面目に“美しさ”の定義を考えると少し難しく感じるかもしれません。
例えば、テキストに求められる“可読性”など、情報を伝達する器という意味での機能面を“美しさ”に対してどう定義づけるか?ということ。また、効果を高めるという目的において、遷移フロー前後のページとの“親和性”にも注意する必要がありますが、これもどう位置づけたら良いのか?などです。

渡辺:「関係性」や「ストーリー」といった文脈も “美しさ”を構成する要素なので難しいですね。人によって“美しさ”の定義が異なるので、本当に複雑だと思います。ある課題に対して、“美しさ”をどう定義するかが、デザインの重要な要素だと考えられます。

宮本:アートは、自身の決めたメッセージコンセプトと主観性を信じて、人に真似ができないアウトプットをひたすら突き詰める必要があると思いますが、レスポンス広告のクリエイティブにおいてはターゲット100人中100人の共感を目指すことがメインミッションです。
「人の心を動かす」という意味での中間目標は同じですが、前者は“個のアウトプット”を重視。それに対して後者は“個のインプット”を重視するのでそこに視点の違いを感じます。
とはいっても、完全に交わりのないものとも言い切れない。これがクリエイティブの面白さのひとつなのかもしれませんね!

渡辺:以前体験したことですが、商品に特殊な動きをさせるアニメGIFのバナーが高いCVRを記録しました。しかし一方で、今までになかった動きに対してのユーザークレームが出ました。ユーザーのある一部の層には支持されましたが、一方ですごく嫌う人も現れました。
もちろん100人中100人に支持されることを目指すことが大切なのはわかりますが、自分の中では100人の中の10人だけに強烈に好かれるみたいな考え方も正解だと思っています。

宮本:長期にわたって商材を愛用するロイヤル顧客づくりの視点でいうと、購買するユーザーの“質”にもフォーカスする必要があるので、そういった気概は大切にしていきたいですね。

深く刺さること=美しい

渡辺:そもそも今回このテーマを考えた背景は、特にデザインの修練を積んでいない人達の「獲得できたらいい」という考え方が正しいのか?というところが出発点でした。パッと見た時にビジュアルが綺麗でも、見た目が汚いクリエイティブに効果で負けている場合はどちらが正しいのかと思うことがよくあったためです。
色々考えてみましたが、コンセプトにあわせてビジュアルがしっかりコントロールされている上で、相手に伝わってはじめて「美しい」広告といえるのかもしれません。少し話が逸れるかもしれませんが、子供が親に書いた手紙の字が汚くても、親と子供の関係性においては、その字の形以上に美しいものはないと思います。そういうものを上手く設計してアウトプットしたものは一見汚くても美しいと言えるのかもしれないですね。

宮本:渡辺さんも私も、「深く伝わる」ということを“美しさ”のゴールにしているということですね。ターゲティングのレバーが細分化していっているインターネット広告業界において、先ほどの子供の手紙の例のような発想は一層必要性が高まってくると思います。
色や形だけに惑わされる“美しさ”も本質ではなく、背景にあるコンセプトやターゲットの思考とのリンク(整合性)も含めたものが本当の美しさだということですね。

渡辺:そうですね。コンセプトをいかに効果的に伝えるかが重要だと思います。主要なターゲットからこぼれ落ちる人に対してもアプローチする技量は必要だということです。

宮本:渡辺さんのように、広さよりも深さを重視している方が、人であるクリエイターとしてはこれからの時代にマッチしているかもしれませんね!

渡辺:自分がメインストリームになることはないと思っていますが、深さを追求している人の方が、多くの人に深く刺さるクリエイティブを生み出す可能性を持っていると思います。型にはまらず、効果をしっかり出せる“美しさ“の設計を目指したいですね。

宮本 篤史

株式会社サイバーエージェント

インターネット広告事業本部 クリエイティブソリューション局 マネージャー兼クリエイティブディレクター

渡辺 周平

株式会社サイバーエージェント

インターネット広告事業本部 クリエイティブソリューション局 シニアプランナー兼クリエイティブディレクター

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