2016/9/23 Fri

【クリエイター特別対談】グレートワークス 鈴木曜 氏 ×サイバーエージェント 中橋

TAG:

「これから求められる『デジタルクリエイティブ・チーム』とは?」(前編)

鈴木 曜 氏

グレートワークス株式会社
Chief Creative Officer

中橋 敦

株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部 次世代ブランド戦略室
クリエイティブ&テクノロジーグループ プランニングユニット
マネージャー兼シニアプランナー

 グレートワークス Chief Creative Officer の鈴木 曜 氏をお迎えし、当社 シニアプランナーの中橋と、
「これから求められるデジタルクリエイティブ・チームとは?」をテーマに特別対談を実施しました。
前編・後編にわたり対談記事をお伝えいたします。

 

◆GREAT WORKS について

CA中橋:改めてなのですが、クリエイティブディレクターとして活躍される鈴木曜さん、及びGREAT WORKSについて教えて下さい。
 
鈴木氏:GREAT WORKSは、2002年にスウェーデンで創業しました。そして2005年にアメリカ、2008年に僕が今やっている東京、2010年に中国、そして昨年デンマーク。という感じで、グローバルに展開しているクリエイティブエージェンシーです。
もちろん、僕らの最大の強みは、当初からデジタルでした。スウェーデンという国自体が、デジタルリテラシーがものすごく高いんですね。ブロードバンドや携帯電話の普及率など、デジタル競争力ランキングみたいなものでは、毎年ベスト3に入るような、いわゆる「デジタル大国」です。
 一方で、家具やテキスタイルを含めた「北欧デザイン」って、たぶんみなさんもご存じだと思うのですが、そういったデザインや、いわゆる商業の物作りみたいなものはですね、古くから国際的に定評がある国でした。ですので、そのどちらも融合した形で、デジタル×クリエイティブを得意とするエージェンシーというものが必然的に数多く発足しています。
CA中橋:いわゆる、一般の広告代理店との違いはどんな点なんでしょう?
 
鈴木氏:そうですね、違う点でいうと、僕らはメディアを使って何かしようということを、元々アイディアのベースとしてはあまり考えない。
デジタルコンテンツってそれ単独で広がっていける力があるじゃないですか、なのでそういう意味で媒体を使って広げようというよりは、しっかりとコンテンツを作っていく、というところに主軸を置いています。
もちろん、どちらが良い悪いというわけではなく、そのあたりは大きな代理店さんとの明確な違いかなと思いますね。
僕らの主戦場はどちらかと言えば、デジタルのコンテンツの制作や、デジタルを駆使した双方向のコミュニケーションの創造というところです。
CA中橋:曜さんご自身が、ユニークなキャリアをお持ちですよね。
元々はクライアント側にいらっしゃって、そこからエージェンシー側に行かれた背景も教えていただきたいです。
 
鈴木氏:もともと僕は、自動車メーカーで、オウンドメディアを始めとするデジタル領域の担当をしていたんです。なので、今と全く逆の発注側ですね。
 
基本的には、僕自身が、スウェーデンのワークスタイルやライフスタイルにポテンシャルをすごく感じていた部分が多くて。スウェーデンって小さい国ですけど、H&MやIKEA、VOLVO、他にはSpotifyやSkypeなんかも。そういった世界に羽ばたいている強いブランドがいっぱい出ている国でしたので、日本のブランドも、そういうところに倣うところもあるかなと思い、僕自身、立場を変えていろいろ勉強してきたここ数年、という感じです。
 
メーカー勤務時代から、デジタル担当として、デジタルとクリエイティブの可能性を非常に感じていた部分があるので、今まで僕がやってきたことが少しでもお客様の役に立つといいなと思っています。
 
中橋さんは、サイバーエージェントさんではどんなお仕事を?

CA中橋:ブランド宣伝予算を持つお客様のインターネットマーケティング支援を目的とした専門組織「次世代ブランド戦略室」にて、お客様の課題や目指しているビジョンに対し、アイディアファースト&フルスクラッチで向き合うクリエイティブ領域を担当しています。
プランナーやデザイナー、アートディレクター、テクニカルディレクターなどが在籍しており、サイトやアプリ制作、Webキャンペーン企画はもちろん、イベントなどのフィジカルな領域とデジタルを組み合わせたコミュニケーションや、新しいテクノロジーを取り入れたコミュニケーションなど、デジタルを軸にしたクリエイティブ領域での仕事が、年々その数と規模、幅を拡大している状況です。

サイバーエージェント全体でみると、メディアや運用はもちろん、アドテクを担当しているエンジニアやゲームを開発しているプロデューサーなど、様々な人材が身近にいるということもポジティブにワークしていると思います。

◆クライアントから求められることや仕事内容の変化

CA中橋:クライアントから求められることや仕事内容において、以前と最近で何か変化を感じますか?
 
鈴木氏:ものすごく変化をしています。たぶん、2010年頃は、たとえば、ウェブサイトの制作において、そこでどれだけCTRの高いデザインにするかとか、ブランドを伝えるデザインにするかといった、デザインのディティールの話や、SEOのマネジメント系の話がすごく多かったと思います。
今はもう、そういう次元を逸脱して、デジタルがキャンペーンの上流や、核となる帰着点になるようなケースも増えてきてます。
ソーシャルメディアの存在も年々大きくなっていますよね。仕事としては規模感が非常に多様になってきていると思いますね。
 
CA中橋:今はどんな案件が多いのでしょうか?
 
鈴木氏:そうですね、差し支えない範囲でお話しすると、企業理念体系の構築や、テレビCM制作、オウンドメディア戦略の構築、あとは、海外向けのデジタルサイネージの企画・制作、海外向けのプロダクトブランディング・・・あたりが今ちょうど僕の抱えている大きな仕事だったりします。
 
今の話からもお分かりの通り、全くデジタルとは関係のない領域や、広告だけで片付かないことが多い領域だったりもします。なので、広告宣伝部の方以外にも、ブランド推進部やCSRの部門の方々とご一緒するケースが増えてきています。
 
CA中橋:広告宣伝部以外の方と対峙するケースが増えてきているというは、ここ最近ですか?
 
鈴木氏:ここ数年はとくに顕著ですね。
「広告が広告を飛び出している」ような、広告的発想や、広告的手法との相性が良いものなんだけど、実はもうちょっと企業の上流や、深部に関わるものも、すごく増えてきているなと肌感では思いますね。

◆サイバーエージェントの印象

CA中橋:曜さんから見たサイバーエージェントってどんな印象ですか?
 
鈴木氏:平成の大企業ってこういう企業なのかなと。いわゆる、ベンチャー的勢いがあってそのまま大きくなって、それでいて現状に甘んじていなくて、進化というか文化づくりを繰り返しているところを見ると、昭和の大企業や、デジタル界隈のベンチャーとはちょっと違う新しいスタイルを感じてます。
 
CA中橋:平成の大企業……!
 
鈴木氏:言い方、すごいダサいですけどね(笑)。
 
CA中橋:いやいや、なんか新しい……!
鈴木氏:もちろん、すごくポジティブな意味です。大きい会社だけど代謝がいいみたいなところって、昔から脈々と続いている大企業と、良い意味で違うところだと思っています。
売上がどんどん伸びていて、収益基盤もしっかりしている企業で、それを守ろうとか、そこで売伸ばそうといった守りの戦略ではなく、常に新しいところに踏み出している、攻めてるイメージ。そして何より、そこに若い才能もしっかり集まってきてる。
新しい方向で、かっこよくサイバーエージェントさんらしく市場を広げていってもらえると、もう一つ新しい市場や新しいコミュニケーションができていくんじゃないかなと。
 
CA中橋:そういう風に見ていただけている部分は、こうして改めてお聞きすると、すごく新鮮味があります。

◆クリエイティブにおけるグローバルの垣根

鈴木氏:僕は、日本の企業を海外でしっかり広げていくためのお手伝いをしたいなっていう思いが非常に強くあります。
こちらから海外に出て行こうという視点がなくても、恐らくここ数年で、海外から日本に近づいてくるだろう、という感じがすごくしています。もちろん、結果としてグローバル化は避けられない可能性がすごくある中で、日本の個性として、僕はサイバーエージェントさんや、貴社が生み出す新しいコミュニケーションに期待をしています。僕が期待してどうするんだって感じですけど(笑)。

CA中橋:いえいえ。ぜひ期待に応えられるよう邁進していきたいです。
僕もですね、こんな話を真面目にしたことがあるか分からないのですが・・・。
 
鈴木氏:何度もお会いしてますが、たぶんないですね。
 
CA中橋:(笑)。僕、日本のかっこよさを海外に伝えたい、という想いが強くあって、それが広告業界に入ったきっかけだったりもするんです。個人的な話になっちゃいますが、実家が重要文化財という特殊な環境ということもあり。
 
鈴木氏:そうなんですね。初耳だらけだ。

CA中橋:どこでひねくれたのか分かりませんが、どうも日本文化に対してのアレルギーがありまして笑。
その反動のせいか欧米文化への憧れが人一倍強くあったような、そんな10代でしたが、大学のゼミで、京都で何百年と続いている漆の会社を率いる若社長との出会いがありました。日本のカルチャーのど真ん中である漆を武器に、パリやロンドン、ニューヨークなどで、かっこいいプレゼンテーションをする姿を目にしたんです。そのときに、「日本の文化ってかっこよく思っていいんだ!」と、自分の中で否定し続けてきたモヤモヤが、一気にキラキラしたモノへポジティブに変わるドンデン返し体験をしたことがありました。それがきっかけで、ニッポンのかっこよさを世界中へ伝えていける仕事はないかなと、たどり着いたのが広告業界でした。
 
この業界に入って気づけば10年以上経ちましたが、さきほど曜さんが仰った通り、日本と世界の垣根は、放っておいても勝手になくなっていくんだなと最近感じます。
 
鈴木氏:はい、なくなりますよね。
CA中橋: いま弊社でも、欧米からアジアと幅広く外資系のお客様が増えてますが、仕事を通じても、海外との垣根はどんどんなくなるなと感じていますし、そういう環境に対峙できないとやばいなっていう恐怖感もあるので、感覚的なところも含めてグローバル化していかないと、と思っています。
今改めて英語の勉強中ではありますが、クリエイティブ領域の曖昧なことを擦り合わせていく作業とかって、いったいどうやるんだろう?とか。(笑)
 
鈴木氏:難しいですよね。日本の言葉って、すごくコンテクストの抽象度が高いじゃないですか。内在する意味がものすごくあるというか。
 
CA中橋:そうですね。
 
鈴木氏:行間がある。だから、端的に表現する文化の欧米諸国でのクリエイティブ作りみたいなのって、まぁ大変ですよね。極端な例を言うと、欧米人と日本人では虹彩に含有されるメラニン色素の量も違うので、見える色も違いますし。雨上がりに虹を見たときに、紫外線に強い日本人は7色を見分けられますが、欧米人は5〜6色くらいだったり。
 
CA中橋:そうなんですか!知らなかった。
 
鈴木氏:育った文化が違えば、見え方も変わってくるわけです。色々な国籍のチームと仕事をしてきましたが、アジアと欧米では明確に分かれるかなと思いますね。表現自体は、ノンバーバルなものを求められがちですが、コンテクストの理解をどこまで求めるかみたいなところでいうと、言葉も大切。これらをクリアしていかないと、日本の企業が海外で、今まで日本でできていたことを伝えられるかというと、結構難しいと思いますね。
 
でも、日本独特の機微や所作などは伝えづらいけど、美しさやリスペクトはある、というのは痛感しています。
難しいんですよ。手伝ってくださいよ!
CA中橋:いやいや。僕なんかは、クリエイティブを詰めていくという作業を、まだ外国の方と一緒にやった経験ってほとんどないんですけど。
 
鈴木氏:「詰める」っていう部分で見ると、やっぱり日本の方が詰めますよね。
 
CA中橋:と言いますと。
 
鈴木氏:何でここをこうしたのか、みたいなことは、「見た目かっこよければいいじゃん」という「デザイン イズ デザイン」みたいな感覚的なものと、すごく相反している。欧米のデザイナーにとっては、見た目を損なってもやっぱり意味を大事にしちゃったりするのは、理解できない行為だったりするんじゃないですかね。
そういう意味では、グローバルで統一のクリエイティブを出して伝えるというのは、言葉で言うよりもずっと大変な作業なんですよね。

CA中橋:確かに海外のクリエイティブを見ていても、エグゼキューションにとことんフォーカスする潔さみたいなものを感じますね。
 
鈴木氏:だから、グローバルエージェンシーの先輩方が「最後は言語だよ」って口を揃えて言うのは、端的なコミュニケーションという話ではなくて、制作物に対する深いところでの意思疎通や文化の相互理解がきちんとできないからだとわかりました。
結局、最後は言葉かよって話なんだけど、表現を作っていくには不可欠だし、すごく大事。
ただ、アイディアやクリエイティブでその言語の壁を乗り越えるということも、非常に難しいですが、できなくはないです。
なので、そういうことを日頃考えながら企画を立てるよう意識はしています。

CA中橋:やっぱり、「一発で伝わる強さ」というのは、クリエイティブに求められると思います。
リアルもデジタルも入り混じってカオス化していくこの世の中においては、今後ますますシャープで力強い企画が求められるんじゃないかなと。説明が必要な状況になった時点で負けな気もしています。
 
鈴木氏:クリエイティブをやっていく上で、やっぱり、「ユーザーに見てもらえないことが前提」という視点に立っていないと、なかなか難しくなると思っています。
 
CA中橋:まさにそうですね。

◆クリエイティブ開発よりももっと手前の、「広告は見られない」という前提に立つこと

鈴木氏:もはや人間って、8割強くらいの広告をスルーできるじゃないですか。でもスルーしてる中でも印象的なものは記憶に残る。それは、表示枠や自分のアイデアの上にあぐらをかかずに、「見てもらえる」クリエイティブを作っているかどうか。
 
CA中橋:見てもらえてない広告の方が多いですよね。
 
鈴木氏:多いですよね。多分。
僕はメーカーにいたから、広告主が、「クリエイティブにお金を払う決断をする」という重みを考える。決済の大変さやそのプロセスを理解しているつもりなので、お預かりしたその意思やお金をね、やっぱり生きたものにしたいし、長く残るものにしたい。だから、細部に拘りたくなる。
 
CA中橋:先ほど曜さんが言われたように、「広告はそもそも見られない」っていう発想、とっても基本的な部分なんですけど、コミュニケーションに関わる仕事をしている全員が、徹底的に持っておきたいですね。
メディアも、運用も、コンテンツ開発側も、徹底的にその原始的なというか、本質部分を追求していって科学反応を起こしていけば、もっと良いコミュニケーションを生み出せるような気はしています。まあ、立場や部署が違うと、追っているKPIが違ったりするので主張がかみ合わないことも出たりしちゃいますが(苦笑)。

 
鈴木氏: 実際、自分がその立場になると分からなくなるっていうのはすごくありますよね。デジタルに限った話ではなくて、広告を作る側に回った途端に、顧客視点がなくなるというか。
僕もチームのみんなにはいつも言っているんですが、「作り手」と「受け取り手」という二面性を日常的に持つことをお勧めします。
あくまでも僕の個人的な考えですが、お客様は自分自身の事が分からない。
「今朝、どうして2番目のドアから電車に乗ったのか」「コンビニで何故コーラを選んだのか」「なぜ今この記事を読んでいるのか」という事象の原因をお客様は意識しない。でも、意思決定の連続で生活が成り立っているんですよね。
そういう無意識下の意思決定に思いを馳せて、「お客様の視点に立つ」ことが、本質的な「顧客視点」。「顧客意識」と言ってもいい。
普段何気なく過ごしていることに「なぜ?」という問いを投げかけていく、そういう姿勢が必要。ここには部署とか関係ないので、中橋さんの言う通り、ベクトル合わせて垣根を超えた議論ができると思いますよ。
 
でも実はこれ、日々自分がやっていることそのものなんだけど、意外に作り手になると忘れちゃいます。
CA中橋:確かに。すごく基本的な話のはずなのに、忘れちゃってる自分がいる……やっぱり多いですね、思い返すと。
 
鈴木氏:難しいんですよね。忘れちゃうんですよ。
僕も忘れるので、意識していないと保ち続けられないところですね。
そもそも、広告を8割スルーっていうのは、その8割について考えていると、頭が情報過多でおかしくなるからっていう自己防衛だと思うんです(笑)。
 
でも、僕らはその中の全てではなくても、1割か2割に対して、きちんと想いを向けていく、ということが大事。頭おかしくならない程度に(笑)
 
「今日、電車の中吊りには何があった?」みたいな質問を、僕はメーカーにいた時に、先輩からすごく聞かれていたんですよ。
「広告のプロなんだから、何が、この世の中にいま出ているのかっていうことくらいは考えろ」みたいな。
そういう広告のプロたちが僕のプレゼンを聞いているって考えると、日々怠惰には過ごせないなって思いますよね。
 
こういうのって、クリエイティブ開発のプロセスよりももっと手前の、マインドセットが非常に大事だ、という基本的な話で、そこに、テクノロジーが要るか要らないか、みたいな話なのかなと思います。
 
CA中橋:コアとなる部分は、人間の生きた感覚があってこそで、それ無しでは感情は動かない。テクノロジーはその表現の幅を広げるとものかなと。
 
鈴木氏:まさにそうですよね。テクノロジーが進みすぎると、それを扱う人間が大事になってくる。KPIの核を見つけたり、事業活動における目的のような本質的なところを、人間がぶれずにハンドリングしないと、心を揺さぶる感動領域まで持ち上げられないと思ってます。
私も日々反省していますけど(笑)。
 
CA中橋:非常に勉強になります。
 
 
 
後編へ続く
関連記事

TAG LIST