「安心と愉しさ」を提供価値とし、自動車と航空宇宙の2つの事業を展開する株式会社SUBARUは、蓄積された豊富なデータを活用した受注最大化を実現する広告運用の仕組みづくりをサイバーエージェントとともに取り組んでいます。
その取り組み内容について株式会社SUBARUから安室様、川﨑様、森井様をお招きし、サイバーエージェントよりアカウントプランナーの田代、データ本部データコンサルタントの田中、高島とともに対談を行いました。
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安室 敦史
株式会社SUBARU
国内営業本部 マーケティング推進部 宣伝課 課長 -
川﨑 みさ旗
株式会社SUBARU
国内営業本部 マーケティング推進部 宣伝課 -
森井 昌弘
株式会社SUBARU
国内営業本部 マーケティング推進部 メディア・カスタマーコミュニケーション
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田代 快
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部 アカウントプランナー(取材当時) -
田中 雅大
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部 データ本部 データコンサルタント -
高島 涼汰
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部 データ本部 データコンサルタント
ユーザーのオフライン行動とオンライン行動を紐づけ、広告評価と直結するデータ基盤の構築へ
安室氏:私はマーケティング推進部にて国内の広告宣伝全般を担当しています。実は私がサイバーエージェントさんと一緒に仕事をするのは2回目です。もともと2017年頃までは、蓄積していた1st Party Dataを活用した広告配信をしていました。
一度マーケティング推進部を離れたのですが、2023年に戻ってきた時には蓄積していたデータの活用手法等が大きく変わっていました。再度データを活用した配信をしたいと思いコンペを行った結果、サイバーエージェントさんに依頼しました。
CA田代:私はアカウントプランナーとしてコンペ時からSUBARU様をご担当しています。
コンペ時は「受注最大化を実現する広告運用」を求めていただいていました。加えて、広告経由のコンバージョンは増えているものの、受注に繋がっていないことも課題としていただいており、それを解決するデータ基盤の構築と構築したデータ基盤を活用した広告運用の2段階で提案させていただきました。
安室氏:そうですね。自分が離れていた7年間で、取得できているデータは増えていたのですが使いこなせていなかったですね。
CA田中:私はデータコンサルタントとして、SUBARU様のコンペ時からご担当しており、データ基盤の構築部分を提案させていただきました。蓄積されているデータを拝見した際に、かなり多くのデータが整備された状態で蓄積されていたことに驚きました。正直、宝の山だと思いました。
安室氏:確かに、以前はデータを蓄積していたダッシュボードなどがあったのですが、それを活用できていませんでした。
CA田中:蓄積されていたデータにはオフラインの情報とオンラインの情報どちらもたくさんあったのですが、上手く繋がっていない印象でした。この2つのデータを紐づけることで、受注地点での分析や評価を実施できるようになるため、受注最大化につながる広告運用が可能になります。
具体的には受注台数などのオフラインデータとコンバージョンなどのオンラインデータの紐づけですね。
データが大量にあるがゆえに、データモデルのデータ基盤を上手く作ることが今後のデータ管理として生きてくる部分と考えました。
メダリオンアーキテクチャで設計したエンジニアからマーケ担当まで一貫して使えるデータ基盤
CA田中:データ基盤の構築にあたり、メダリオンアーキテクチャ構造というデータレイヤー戦略を軸にした設計を行いました。メダリオンアーキテクチャとは、戦略的にデータレイヤーを分けることで、堅牢性と柔軟性を担保したデータ基盤の構築を実現させるための設計手法です。
データレイヤーとして、生データを格納するブロンズ層、データを扱いやすいように集約、統合するシルバー層、機械学習やダッシュボードなどの活用先との接続に使用するゴールド層の3層で構成されており、属人化を避け、管理もしやすくなります。
安室氏:データ基盤が整う前はかなり属人化していたと思います。データも大量にあるなか、一度構築してもエンジニアが変わったりすることで引き継がれずに整えたデータが活用されなくなってしまっていました。データを整えていただいたのはかなりありがたいです。
CA田中:ありがとうございます。さらに、属人化を避けるために「エンジニア向けのデータ定義書」、「マーケ担当者向けの概要書」、「広告評価において重要なIDについての解説書」等のドキュメントも作成し、データ領域で実施している内容の見える化を行いました。
森井氏:私はマーケティング推進部にて安室とともにデジタル広告の全般を担当しています。サイバーエージェントさんによってデータが整ってからジョインし、作成していただいたテキストを活用していますし、かなりありがたいですね。宝の持ち腐れにならないように活用していきたいです。
川﨑氏:私もマーケティング推進部にてデジタル広告の全般を担当しております。自分がジョインした時はサイバーエージェントさんに整えていただく前で、定義書はあったのですが、曖昧だった部分があり、業務理解が難しかったですね。
サイバーエージェントさんに改めて整理いただいてからは、具体的にデータを活用してどう広告運用したらいいのか、何ができるのかという議論も行うことができるようになりました。
今後チームにジョインした人でも、定義書を見ればイメージも付きやすいですし、具体的な理解が深まっていくと思います。
データを分析し「推定受注CPA」を導入。新しいKPIで実受注CPAを74%まで改善
CA高島:私もデータコンサルタントとしてSUBARU様のデータ基盤構築から現在まで担当させていただいております。
2025年2月にデータ基盤が完成し、ユーザーのサイト行動やサイト上でのコンバージョン、来店や受注が正しく繋がるようになりました。しかし、サイト上でコンバージョンしてから、受注までにリードタイムがあることから、広告評価の迅速なPDCAが回せないという問題は残ったままの状態でした。
安室氏:広告のコンバージョンから購入までのリードタイムはおおよそ90日です。一般的には世に出ているほかのデータだと60日だったりするので、当社は長いほうかと思います。
CA高島:そうですね。このリードタイムをどう考えていくかをSUBARU様と議論を重ねていき、「推定受注CPA」という新KPI指標を導入しました。これは広告経由のコンバージョンが起きたタイミングでそのコンバージョンからの契約台数を推定するものです。この指標は整えたデータ基盤の様々なコンバージョンデータをベースに推定されたものです。これにより、受注ベースでの広告効果を測定できるようになりました。
また、推定受注台数と実際の受注台数にほぼ乖離がない状態で運用できたため、両社間でその指標を活用することができたと思います。
CA田中:指標作成の際にはパス分析(※)も活用して捉えていく必要があったので、どこまで正確推定できるかを懸念していたのですが、うまくいった時に社内でも盛り上がりましたね。
※ユーザーや顧客がどんな順番で行動したかを可視化・分析する方法
川﨑氏:実際に新指標でのデータを見て、ここまでほぼ正確にできるとは思っておらず、驚いたというのが正直な気持ちです。提案いただいた際に、どれくらい紐づくのか、ということは気にしていました。これからもどう活用していくかも考えていきたいですし、本当に伸びしろがありますね。
安室氏:今はデータのCookie規制も厳しくなり、広告効果の計測が難しくなっていると思います。時代の変化でやれることが限られてきている中で、推定受注CPAのような重みづけやアトリビューションの考え方はうまく今の時代に合わせて効果検証できる仕組みを作ってくれて、精緻にできている。素晴らしいですよね。
CA高島:ありがとうございます。また、推定受注CPAをベースとして、広告運用施策や運用メディア、実績を可視化できるダッシュボードを構築し、どのメディアやターゲティングでリアルタイムに受注できているかが可視化できるようになりました。
川﨑氏:そうですね。実際に運用してみるとかなり数値が分かりやすく、データもとれるし、ダッシュボードも分かりやすい。そして実績とのズレがほぼない。今までオンラインのみのコンバージョンで判断していたところに、データを組み合わせることで運用数値の重みや説得力がさらに増したと思います。
CA高島:新KPI指標を導入するときは、浸透せずに終わってしまうパターンもあると思っており、特に川﨑さんから策定内容について何度も質問していただいたことがとても印象に残っています。策定した内容について納得いただけて、さらに議論できたことがKPI指標として浸透することにつながったと思いますし、嬉しい気持ちです。
CA田代:推定受注CPAを加味して広告運用することで、より受注につながりやすい施策へタイムリーに予算アロケーションをすることが可能となり、実受注CPAを活用前対比74%で配信することができています。
例えば、受注に最も近い下層ファネルの広告では、「一般的な試乗予約広告」と「ゴルフ愛好家向けの試乗予約広告」のどちらがより効果的かをリアルタイムで判断し、適切な投資ができるようになりました。これがデータ活用による最も大きな変化だと考えています。
また、受注転換率を分析した結果、特定のメディアAは、試乗予約のCPAが低かったため、従来は重点的に予算を配分していました。しかし、推定受注CPAを活用し深く分析したところ、メディアA経由の試乗予約は、他のメディアと比較して受注への転換率が低いことが判明しました。
そこで、私たちは受注CPAだけでなく、受注転換率もメディアやメニューごとに詳細に分析しました。この2つの指標を総合的に評価することで、「受注により貢献する」適切な予算配分が可能になりました。
安室氏:そうですね、以前も同様、受注以前の試乗予約などのCPAが安価で推移していても、受注には繋がっていない媒体やターゲティングが多くありました。
例えば一般的にはCPMが高かったり、獲得しづらいといわれる媒体がありますが、この推定受注CPAを活用することで、当社の広告運用においての正当な評価がしやすくなっていますね。
CA高島:分析結果を元にした示唆出しやネクストアクションの検討を弊社のメディアコンサルタント含めSUBARU様とディスカッションしたこともありました。分析結果に全員で向き合っていって同じ目線を持てることがすごくよかったと思っており、今後も加速させていきたいと思っています。
今後の展望
安室氏:獲得領域についてサイバーエージェントさんは本当に強いと思っています。認知領域に関しては、テレビからデジタル広告へ予算が再配分されることはすでに動きとして生まれています。
今回のデータ基盤の構築から広告配信まで運用できたことを通じて、認知領域から獲得領域まで一筆書きで描けることが私どもとサイバーエージェントさんとでできる強みだと思っているので、その部分を一緒に取り組んでいきたいですね。
森井氏:認知領域に関して、配信から受注に寄与するところまでをコントロールできるようになりたいですね。認知配信だからこそ配信して終わり、ではなくてそこから可視化をしっかりして受注まで追っていけるようにしたいです。
データの抽出や設計、定義などディスカッション内容はたくさんあると思うのですが、サイバーエージェントさんと会話しながら今後も進めていきたいですね。
川﨑氏:デジタル広告への予算再配分は今後も増えていくなかで、一番受注に対して効率的に予算配分できる仕組みを整えたいです。その仕組みを構築する根拠になるデータ基盤になるものを一緒に作っていきたいと思っています。
また、生成AIを活用した広告配信にトライしていきたいですね。当社の魅力はお客様にまだまだ伝わり切っていないと思うので、生成AIを活用してクリエイティブを制作して何がお客様に響くのかも見てみたいですし、そこから受注に繋がる検証をするプロジェクトも進めていければ嬉しいです。
CA田代:今回のデータ基盤構築プロジェクトを行うまでは、広告運用のなかでも上澄みの部分しか見えていなかったと思っています。今後は、推定受注CPAを活用しながら各施策の詳細な転換率分析を進め、最適なメディアプランを構築することで、貴社の最重要KPIである受注数の最大化に貢献できるよう、広告運用に取り組んでいきたいと思っています。
また、多くの企業が課題としているファネルごとの適切な予算配分についても、現在、解決策を模索している段階です。
また、クリエイティブについても生成AIを活用しながらバリエーションを増やしていき、最終的にはフルファネルでのアプローチを実現したいと考えています。
CA田中:データ基盤構築ができた中で、まだまだ受注最大化に向けて取り組めることが多くあると思っています。例えば、メーカー広告だけではなく、特約店等の広告やメルマガ施策なども複合的に加味した上で、最適な基盤構築を行い、KPIを設計し、広告を運用していく、というPDCAをまわしていきたいと考えています。
CA高島:データ活用の幅と深さにより取り組んでいきたいです。幅でいうと、例えばユーザー単位で、付属品の購入状況やメルマガの開封状況といったより広範囲のデータを集約していきたいと考えています。深さについては1人の顧客の行動を深掘りするデータ分析を進めているので、その分析内容を広告運用やそのほかのマーケティング活動に転換できるデータ基盤を作りたいです。
また、データ基盤を作っていても使われないと意味がないと思っています。データ分析とAI活用を掛け合わせることでSQLなどのコードを使わなくても、誰でもデータ分析ができる技術が近い未来にくると考えています。そういった先進事例をいち早く作り、SUBARU様のマーケティングに貢献していきたく思っています。
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記事制作・撮影: 株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 広報
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