2015/8/27 Thu

Facebookにおけるマーケティングの変化とこれから(前編)

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須田 伸 氏

Facebook Japan株式会社 執行役員 マーケティング本部長

大志摩 丈嗣 氏

Facebook Japan株式会社 マーケティングサイエンス責任者

伊達 学

株式会社サイバーエージェント 執行役員 インターネット広告事業本部 統括

木村 暁生

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 インフィードセールス局 局長

Facebook広告におけるマーケティングの変化とこれから ~前編~

Facebook Japan株式会社より須田氏、大志摩氏をゲストにお迎えし、Facebook広告の現状と活用について、当社執行役員の伊達、ソーシャルメディア担当の木村と4名で対談を行いました。
Facebook広告の変化やFacebook独自の調査による最新情報などを、前編と後編に分けてお伝えします。

PCからスマホへの変化と、フィード広告の登場

CA伊達:Facebookは現在、全世界、日本国内ともに、モバイルからの利用率が非常に高くなっていると思いますが、途中でモバイルにぐっと舵をきられたタイミングがありましたよね。その時、社内はどのような状況だったのですか?

須田氏:もともと、モックなども含めて全てPCベースで開発を進めていたのが、2012年から、モバイルファーストを掲げてモバイル前提でないとプロダクトレビューをしない、といった方向性に変わったことによって、社員の意識が一気に変わったようです。
他のアクセス環境での成功体験があると、デバイスをシフトするというのはなかなか難しいと思いますが、Facebookはそれをやりきったという実感はありますね。

CA伊達:実際に、モバイルへシフトするという指令が出てからは、メディアも広告商品も、一気に変化し改善されていく感覚がありましたか?

須田氏:Facebookを利用するユーザーがモバイル環境にシフトし、それに沿ってメディアをどんどん最適化していくに従って、広告商品も進化していきました。
以前は広告というと、PCの右側の広告表示面だけだったのが、ニュースフィードに広告が出るようになり、さらに、モバイルアプリに特化した広告商品や動画広告、ダイナミックプロダクト広告なども登場しました。

CA伊達:当社においても、Facebook広告の売上が伸びたタイミングは、フィードに広告が入った時ですね。

CA木村:あとは、モバイルアプリの広告が出たタイミングからも、特に伸びました。

CA伊達:PCの右側に表示される広告とフィード広告では、レスポンスにおいて大きな差があります。当社のお客様も、フィード広告への出稿を重要視していました。

須田氏:そうですね。フィード広告ができたことで、広告主の幅も広がったと思います。

CA伊達:フィードは、Facebookにとって命のような、メインの場所だと思いますが、広告の比率など意識していることはありますか?

須田氏:Facebookはデータードリブンなマーケティングを非常に重視しています。様々なテストを行い、ユーザーの反応を見ていく中で、ニュースフィードにおけるFacebookの体験が、ユーザーにとって最適なものに保たれた環境下で、広告を出稿していただきたいという想いがあります。そんな想いの中から、きちんとデータを見ながら、調整していきたいと考えています。

CA木村:フィード広告の割合や出し方は、社内で議論になっていますか?

大志摩氏:そこは、かなり気を使っています。ニュースフィードの友達の投稿の何回に1回広告が出るか、ということなど、ユーザーの全体的な体験がどうであるか非常に細かく見ています。

メッセンジャーの広告商品化の可能性

CA伊達:Facebookメッセンジャーの、スタンプの広告商品化の話は出ていますか?

須田氏:現在は予定していないです。最近だと、日本ではくまモンなどの、日本限定のスタンプが追加されましたが、広告としてではなくて、あくまでユーザーの活性化を目的としています。あとは少し前になりますが、昨年の9月から、日本向けサービスにおいて、世界で初めてコメントにスタンプがつけられるようになりました。日本のコミュニケーションの中で、スタンプなどのビジュアルものが好まれるということは、他の国と比べても実感しています。
米国だけの例ですが、現在メッセンジャーにおいてテストを行っている機能があります。
「Businesses on Messenger」というもので、メッセンジャーを、ある種のCRMツール、顧客とのコミュニケーションツールとして利用するということを、2社ほどでテストさせていただいています。
例えばEコマースのお客様が、何かを発送した時に、「発送されました」という情報なども全てチャットで伝えることができます。そういった、ビジネスに役立つようなツールとしての実用性を現在模索しています。このような、メッセンジャーのプラットフォームとしての展開は、今後可能性があると思います。

オンライン動画広告における、オリジナルクリエイティブの重要性

須田氏:動画広告に関しては、Facebookの場合、ニュースフィードをスクロールしていると、自動的に動画が再生されるので、静止画より注目を得やすいという特徴があります。また、自動再生の時は基本的にはユーザーが自分で動画をタップしない限り音が出ないので、無音の中で、どのようにユーザーとコミュニケーションをとっていくのか?Facebookのニュースフィードという場所に合った動画作りというのが、今後のクリエイティブにおいて重要になってくると思います。

CA伊達:私たちも、お客様との会話の中で、「動画広告にもテレビCMと同じ素材を使えばいい」といったご意見に対して、「CM素材とは別に、プラットフォームに合わせたクリエイティブが重要です」と強くお伝えしています。
例えば、トレインチャンネルにテレビCMと同じ素材を流していないというのと同じことです。分かりやすい点を挙げると、字幕を出しますよね。効果を出すためには、そのプラットフォームに合わせた工夫を凝らしていく必要があるというのをお伝えしていて、結果、共感していただいています。

須田氏:トレインチャンネルは、良い例だと思います。トレインチャンネルが出てからだいぶ経ちますが、初期は「音がないと意味がわからない」という課題があったと聞いています。せっかく出稿費用を出すのだから、最適なクリエイティブを出してベストプラクティスにしたいですよね。CM素材とは別の、トレインチャンネルに合った動画を配信した結果、トレインチャンネルはメディアとして高い効果があると注目され、ずっと満稿だと聞いています。
テレビCMなどのマスキャンペーンと連動しつつ、トレインチャンネルに最適化したクリエイティブを出すというのはよくありますが、今後、Facebookのニュースフィードの動画広告でも、同様のことが起こると思っています。

CA伊達:当社でも、配信するプラットフォームにおいて効果が出せる動画クリエイティブを制作するために、特化したクリエイティブチームを作り、それを強みにしています。当社のクリエイティブチームでは、オンライン動画のクリエイティブ事例も多く出てきています。例えば、テレビCM用の素材と、当社が制作したWebオリジナルの素材を同時に配信し比較して、その効果指標においてどちらがリフトアップしたかというのを、テストしています。そうすると、Web用に制作したものの方が、制作単価が5分の1くらいなのに対し、効果は高くなるという結果が出てきています。今後も、配信するプラットフォームの情報をいち早くキャッチアップして、そこで効果が出せるクリエイティブを突き詰めていきたいと思います。

須田氏:動画広告のクリエイティブに関しては、Facebookにおいても一緒に事例を作っていきたいですね。日本のユーザーに向けて、どのようなクリエイティブを作れば良いのかは、これから先のチャレンジすべき課題ですね。
大志摩氏:つい最近、動画広告のクリエイティブに関するアンケート調査を行いました。あるグループの人たちは、「テレビCMで流れている素材を、わざわざFacebook動画で見ようとは思わない」と言うのです。何の目新しさもないわけですよね。視聴してもらえるだけである程度価値が高まるとはいえ、そういった意味でも、Facebook用の素材を作った方が良いと感じました。でも、それだと追加で費用がかかってしまうという課題があるのであれば、例えばテレビCMの、裏のシーンやメイキングのようなものを少し流すだけでも、新鮮さがあるのではないかと思います。

CA伊達:お客様からも、Web動画では、「テレビCMの15秒では伝えきれないサービスのもっと深いところを表現して、ユーザーに知ってほしい」といったニーズは多いです。

須田氏:同じテレビでも、ケーブルテレビやBSなどのインフォマーシャルのようなベストプラクティスと、地上波のCMは違います。また、それらとWeb動画がまた違うというのも不思議ではありません。それぞれの媒体で配信したノウハウやデータはたくさんあると思いますが、Web、特にスマートフォンでの動画視聴に関しては、これから模索していきたいです。

Facebook広告の計測について -指標において、クリックは重要でない!?-

CA木村:Facebook広告において、これまでは不可能だった新たな計測ができるようになったり、それによって分かってきたことも増えてきていると思うのですが、最近の計測周りでの発見やトピックスはありますか?

大志摩氏:広告の価値を計測するにあたって、まず、どういう指標を使っているかというところが重要です。広告を最適化するには、正しい指標を設定しないと、無駄な最適化になってしまいます。
当社には、世界で約100人のメンバーが所属する「マーケティングサイエンス」というチームがあります。「マーケティングサイエンス」では、お客様にFacebook広告の活用に満足していただくために、調査などを行い、それを通じて生まれる価値を提供したり、Facebook広告が生み出す効果などを、きちんと数字でお伝えするようにしています。
効果を実感していただくと、今度はその効果を常に高めるというサイクルになります。どう最適化していくかということに、お客様と一緒に取り組んでいます。最近、特にブランドのお客様にお話ししているのは、クリックの計測はもうやめましょうということです。とるべき指標は、「リーチ」、「態度変容」、「実際の購入」。この3つが重要だということが様々な調査から明らかになってきています。現状、CTRを重要視しているお客様が、まだすごく多い。そうすると、広告の買い方も、CPC寄りになってしまうのですよね。Facebookは、CPCを指標にして買い始めると、クリックしやすいユーザーにどんどん最適化されてしまい、限られた予算がどんどんそのユーザー達に配信されていきます。ですが、全体で見ると、クリックするユーザーは、本当に一部しかいないのです。
もっとリーチを重視していけば、クリックしない人に対しても配信ができるので、より効率的に配信して効果を期待できます。

CA木村:当社でも、以前からクリックユーザーへのアプローチについては議論をしてきました。もともとは、クリックユーザーへアプローチするための入札を行うことが多かったのですが、おっしゃる通りどうしても配信の偏りが出てしまい、結果、コストパフォーマンスが合わなくなることも散見されるようになりました。現在はクリックだけでなく、よりリーチやその単価、そしてフリークエンシーを意識した入札の差配やプロモーションの設計に議論が移ってきています。また、Facebook広告の入札最適化機能の質が劇的に向上してきたこともあり、全体的にCPC偏重のプロモーション設計が変わっていくような気もします。
大志摩氏:もともと一般消費財のお客様が昔から計測してきた指標は、ブランド認知や、好意度、購入意向といったユーザーの態度変容です。ユーザーが態度変容を起こしたかどうかが重要ですが、実はクリックと態度変容は相関がないんです。だったらクリックに指標を置くのは意味がない。テレビを観ると分かりますが、テレビ、誰もクリックしないですよね。

CA伊達:それはそうですね(笑)。

大志摩氏:みんな、それを忘れてクリックの話をするけれど、実際は、観てもらうだけでいいのです。テレビにはGRPという指標があって、広告主はリーチとフリークエンシーを掛け合わせて、インプレッションを買います。それをFacebookでも指標にして、どれだけの人たちに届けることができるか、そして、どれだけ精度の高い届け方ができるかということが重要だと考えています。
例えば、20歳から29歳の女性に届けたい広告が、半分男性に出ていたら、無駄ですよね。リーチというのは、ボリュームだけでなく質もすごく大事です。だから、それをきちんと計測しましょうという話は、お客様にもよくしています。これまで、cookieだと人に結びついていないので、それが計測できていませんでした。cookieでもなく、テレビのようにコンテンツを流すだけでもなく、本当に人ベースでの計測ができるのが、Facebook広告ならではだと思っています。

CA伊達:リーチの重要性を研究されてアウトプットした際の、日本のお客様の反応はいかがですか?徐々に変わってきていますか?

大志摩氏:まだまだ、と感じています。「リーチ」と言った時に、お客様の中には、「Facebookはそんなにリーチが取れない」というイメージをお持ちの方もまだいらっしゃると思います。でも、Facebookのリーチを最大化するような規模のキャンペーンができているお客様は、まだどこにもいないのです。例えばアプローチできるユーザーのうち、多くのお客様は、その2、3割くらいしかリーチしていないんですよね。皆様にリーチとフリークエンシーの重要性をもっとわかっていただいて、もっとリーチを最大化して欲しいです。
アメリカの例だと、リーチを最大化したキャンペーンを実施して、ROI(投資対効果)が1.7倍に改善された実績があります。やはりリーチはすごく重要であり、配信ユーザーへの極度の偏りというものが緩和傾向になっていくのではないかと考えています。

須田 伸 氏

Facebook Japan株式会社 執行役員 マーケティング本部長

大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1992年より博報堂制作局にてCMプランナー/コピーライターとして8年間勤務。Yahoo! Japan、サイバーエージェントを経て、2012年4月よりFacebook Japanに勤務。著書に『次世代広告進化論』『次世代広告テクノロジー』『時代はブログる!』など。

大志摩 丈嗣 氏

Facebook Japan株式会社 マーケティングサイエンス責任者

Facebook Japanで広告測定及び調査を担当。米系のソフトウェア会社、英系のマーケティングコンサルティングの会社を経て今にいたる。趣味は絞り染め。

伊達 学

株式会社サイバーエージェント 執行役員 インターネット広告事業本部 統括

2002年 株式会社サイバーエージェントに入社。入社以降インターネット広告事業に従事し、現在は統括を務める。2014年 執行役員に就任。

木村 暁生

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 インフィードセールス局 局長

2010年に株式会社サイバーエージェントに入社し、広告事業の子会社である株式会社TMNの立ち上げに参画。その後、子会社の株式会社サイバー・バズにて、ソーシャルメディアを中心としたPR業務に従事。2014年にインターネット広告事業本部に異動し、スマートフォンのプラットフォームやメディアの販売責任者として、バイイング・コンサルティング・セールス業務に従事。

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